「鬼の居ぬ間に洗濯」は何よりの長生き術であった
「鬼」は怖い人で、「洗濯」とは命の洗濯。こわい人やうるさい人がいない間に、くつろいで息抜きをすることは大事なようである。日頃の苦労や束縛から解放されて、気晴らしを楽しむ必要がある。働きすぎると早死にするらしい。たくさん鮎を捕る鵜は寿命が短いという。
心臓はポンプとして全身に血液を送り出している。心臓の「ドクン」と動く回数が「心拍数」である。平均心拍数は1分間で60~90回の範囲が正常値だといわれる。その心拍数と寿命の間に一定の法則があるようだ。
生物学者・本川達雄さんの著書『ゾウの時間ネズミの時間』は1992年に出版されベストセラーになった。ご存知の方も多いと思われるが、哺乳(ほにゅう)類は心臓が一定数打つと一生を終えると説いた。
ヒトの場合はおよそ1秒であるが、ハツカネズミなどは、ものすごく速くて1分間に600~700回である。ちなみに普通のネズミは0.2秒、ネコで0.3秒、ウマが2秒、そしてゾウだと3秒かかるそうだ。
そして、おもしろいのが、哺乳類ではどんな動物も一生の心拍数がほぼ同じということなのである。一般的に体が大きい(体重が重い)動物ほど、1分間の心拍数が少なく長生きで、体が小さい(体重が軽い)動物ほど、心拍数が多く寿命が短いという。
心拍が速いと劣化が進み、寿命が短くなる。長生きをしたければ、それを超える過度な心拍数になるようなことは避けるべきだとか。そうなると、健康のための過度の運動は考えものかもしれない。
一生涯に打つ心拍数が、あらゆる動物において決まっている、ということになると、のんびり生きても、せかせか生きても、心臓の消費エネルギー量はおおむね決まっているとみられる。そして、せかせかと心拍数を増やしながら生きるより、のんびり生きる方が心臓のためにはよろしいようである。
さて、気になるお値段...ならぬ、生涯の心拍数は?
20億回。23億回。などとの説がある。また、生物学者の間では「15億回」が定説らしい。
さて、80年という年月を日時換算してみよう。
960ヵ月。29,220日(20年366日計算)。701,280時間。
42,076,800分。2,524,608,000秒。
1秒の心拍のヒトの場合、計算上では80歳までで25億回余りの心拍数が必要となるようである。あとは、それぞれの心拍数の差や長寿化を補う何かに依存するのであろう。
ハツカネズミの寿命は2~3年で、インドゾウは70年近くは生きるそうだ。ゾウはネズミよりずっと長生きなのであるが、心拍数を時間の単位として考えるなら、ゾウもネズミもまったく同じ長さだけ生きて死ぬということになる。
ヒトの寿命は、戦前まで「人生50年」と言われていたが、戦後のこの70年近くで急速に伸びた。
動物園のゾウは、50歳を過ぎると歯が磨り減ってきて、うまく食べられなくなり、食が細ると身体も弱ってくる。そして、そう長くは生きられない。もし、ゾウに入れ歯をすれば、もっと長生きするかもしれない。ヒトも、入れ歯だけで80年というわけではなく、安定した食料供給、医療の発達等が、飛躍的に人間を長寿化させた要因のはずである。