「宝物の時」こそが美味の瞬間
『年齢の本』(デズモンド・モリスさん著)によれば、<59歳は中年としての最後の喝采を受ける年齢>であり、<31歳はもはや若者に信用されなくなる年齢>なのだという。
1歳ごとの年齢の持つ意味を、0歳から100余歳まで、有名人にからめて記されている。
ちなみに、<100歳以上は極限まで生き残った人々の年齢>らしい。
<絵に描いたモチベーション>。
“絵に描いた餅”のからみで生まれた新しい“ことわざ”だとか。
“やる気”、“意欲”に満ちあふれ、何かに取り組んだものの、長続きせず、反省するときに使い勝手がいいようだ。
<完全におとなになる年齢>とされる18歳の大志も、今や何処の(心境の)わが身である。人生とは<絵に描いたモチベーション>の連なりなのだろうか。
<降る音や耳も酸(す)うなる梅の雨>(芭蕉)。
春夏秋冬の四季も、人生に喩えられることがある。
<ハケ(刷毛)に毛がありハゲに毛がなし>。おなじみの、“澄むと濁るで意味の変わる言葉”である。<しっとりなら風情だが、じっとりは不快>な時期でもある。
梅雨の語源説では、梅の実の熟するころの雨ともいわれる。梅干しや梅酒を仕込むときなのらしい。
家族の恒例行事のことを、作家・髙橋治さんは随筆に記した。
「まず庭の梅をもぐことから始まり、梅干し、梅酒はむろん梅エキスも作る。手をかけた梅菓子では、“梅本来の味と香気を完全に残している”」と讃えている。
梅は手塩にかけるほどに味わいは増すという。おいしい“梅干し入りのおにぎり”が恋しくなってきた。炊飯器で炊いたご飯は、表面の部分が抜群においしいようだ。表面をすくい取ってみると、甘みがずっと深い。しゃもじで混ぜるのは、おいしさを均等にするためだという。
<独り酌む この薄酒のひや酒も のめば酔ふもの 水よりは濃き>(岡本大無さん)。
戦中に詠まれた歌である。酒は配給制、ヤミ値で苦労して入手しても水で薄められたものが多かった。“金魚酒”との言葉もあり、金魚が泳げるほど水っぽい酒のことらしい。
うまい米と水でつくる日本酒も、受難の時代を経て、今や世界に広まっている。
誰しも思い出す時間があるはずだ。
いちばん幸せだったのは、いつか?
問われてすぐに答えられる人は少ないだろう。
茨木のり子さんに『答』という詩がある。
<祖母の答は間髪を入れずだった 「火鉢のまわりに子供たちを坐らせて かきもちを焼いてやったとき…」>と。
その即答は、「宝物の時」をいつも心に映しては眺めていたからこそである。
問われるのを待つほどの“楽しい記憶”を思い出させることで、マウスの“うつ症状”が改善した、という実験症例もあると訊いた。