日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

世界の見え方が異なる名人達

 

本塁打王王貞治さんは、打席で“ボールの縫い目まで見える"といった。打撃の神様川上哲治さんも好調のときには“ボールが止まって見える"と発言している。

「動物的」と称された長嶋茂雄3塁手は打撃のみならず、華麗な守備で多くのファンを魅了した。長嶋さんが打球に反応してショートゴロまでキャッチをする姿をテレビで見た記憶がある。

かつて、テレビでご本人は“セカンドゴロも(3塁から突進して)捕ったことがある"とも言っていた。

また、人間離れした技を空中で繰り出す体操の内村航平選手は、体育館の天井や壁の景色を絵に描いて、記憶に刻みつけたとのこと。体がどんなに回っても、今どの位置に自分の体があるのかわかるのだ、という。

その道の名人たちは、世界の見え方がふつうの者とはまるで異なるらしい。

 

 

日本の映画界にも、ハラハラ・ドキドキと観客を興奮させ、サスペンスで息をするのも忘れさせるような監督がいた。

日米合作の真珠湾攻撃を描いた超大作映画『トラ・トラ・トラ!』(1970年公開)で、当初の日本側監督は、黒澤明さんだった。しかし、黒澤監督の撮影は進まず、米映画会社が黒澤さんを降板させることになった。

別の日本人監督に打診するが、<こんなもので世界的な監督になんかなりたくない>と断った人がいる。映画監督・佐藤純彌さんである。<世界的な監督になる機会を棒に振るのか>という米側の説得にそう言い返したらしい。

惜しくも2019年2月9日に86歳で亡くなられた佐藤さんは、斜陽期の1970年代の映画界にて『新幹線大爆破』、『君よ憤怒の河を渉れ』、『人間の証明』などと多くのヒット作を残した。

 

 

佐藤純彌監督は映画本来の娯楽性を大切にした監督である。とくに『新幹線大爆破』では小説を先に読み、これほどの作品がうまく映像化できるのか・・と心配であった。

撮影に関しても、当時の国鉄が題名に驚いて一切の協力を拒否したという。どうしても運転指令室の内部を知りたい佐藤監督は、視察と称して(雇った)外国人を潜入させた。

新幹線の速度が80km/hを下回ると爆発するというサスペンスの内容は、アメリカ映画『スピード』にも使われている。

高倉健さん演じる犯人は、北海道の貨物列車にも爆弾を仕掛けて、時速15キロ以下に減速して爆発をさせてみせた。その伏線がリアル感を増し、減速ができず延々と走り続ける新幹線のシーンだけで、観客を飽きさせることなく緊迫感がどんどん深まる。

作品を盛り上げる“枷(かせ)”の使い方も上手で、佐藤純彌監督の目には“驚愕する観客の顔が見えているのではないか”と思えてしまうほどの作品だといえよう。