いつの世もヘンな人が蔓延る
詩人・吉野弘さんには、漢字を題材にした作品があるという。
<脳も胸も、その図(はか)らいも 凶器の隠し場所>(『同類』)。
脳や胸という漢字には“凶”が隠れており、誰しもが聖人にはなれず、つい凶器のように野蛮な言葉が脳裏に浮かぶ。
脳や胸にとどめているだけなら問題はないだろうが、所かまわず、それも講演(北海道小樽市)で言い放ったとなれば話は別。またまたお騒がせの麻生財務相である。
<90になって老後が心配とか、訳の分からないことを言っている人がテレビに出ていたけど、『お前いつまで生きているつもりだ』と思いながら見ていました>と述べたとか。
<心に耳を押し当てよ 聞くに堪えないことばかり>(『恥』)。
こちらも吉野さんの詩である。近頃辞められた、都知事さんのために書かれたような詩である。何とも虚ろな幕切れであった。
<役者殺すにゃ刃物はいらぬ、ものの三度も褒めりゃよい>。
数多くの役者を育てた菊田一夫さんが自叙伝に記した。
自分のもとにいる役者が世間から無条件にちやほやされ、芸が知らず知らずと下手になるのが一番怖い、と。“役者”を“都知事さんや同類の政治家”に置き換えても意味が通ずる。
菊田さんいわく、<寄ってたかって褒めて落とすのは他人だが、立ち上がるのは自分ひとりである>とのこと。とはいえ、<立つ鳥 跡を濁しっぱなし>のままでは、先が思いやられる。
<いい人と歩けば祭り。悪い人と歩けば修業>。
生涯を旅に生きた最後の瞽女(ごぜ)・小林ハルさんの言葉だという。
おのれの美声に鼻高々の男へ、<粋な声たァ、よく言えたね>と、あきれた仲間がいう。
<お前の声てェものはね、入梅どきに共同便所に裸足(はだし)で入って、出たとたんに金貸しに出っくわしたような声だよ>。落語のひとコマである。
入梅どきの湿った気分は変わらない。座敷には桐の箪笥。押し入れには衣類を納めた茶箱。エアコンのない昔、少しでも湿気を防ぐために、先人が絞った知恵の数々だ。
<火を放ち 野をふり向かぬ 男かな>。
鈴木真砂女さんによる恋の句である。
人の胸に火をつけ、あとを顧みずに去っていく男の後ろ姿。
なんとカッコいいのだろう。こういうさわやかな男もまだまだいてくれることを祈る。
それは、イチロー選手かも知れない。
記録が重ねられ、快挙が点じた火に胸を熱くしていると、(気がつけば)背番号「51」の後ろ姿は次の記録に歩き出している。
今週のお題「2016上半期」