日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

プロのはずが凡ミスで大失態


作家の林芙美子さんは世に出る前、証券会社に1日だけ勤めたことがあるという。

「玉(ぎょく)づけ(証券の帳簿処理)はできるか」と面接で訊かれ、できるふりをした。
<“月給35円”という高給を捨てがたかったから>である。

適当に算盤をはじき、帳面に次々とでたらめな数字を書き入れたが、さすがに恐ろしくなった。初出勤を終え帰宅すると、会社から電報が来ていた。
その文面には<シュッシャニオヨバズ>とあった。

数字の誤りで莫大な被害をもたらす情報化社会とちがい、のどかな時代だったことが、のちの作家と証券会社には幸運であった。

さて、年末恒例“10大事件”等のテレビ番組が放映される時期だ。本年も年初から大きな事件が続いた。そして、事件は次々と連鎖されていく。
昨年はどんな事件があったのか? と思えば、すぐには浮かんでこない。ましてや、10年前にこんな大事件があったことなど、すっかり忘れていた。

 

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2005年12月8日、東京株式市場で、同日上場した総合人材サービス業ジェイコムの株式に対し、みずほ証券(旧法人)が誤って大量の売り注文を出し<被った最終損失は407億円>という事件が起きた。

同日の取引開始直後、みずほ証券は、顧客の投資家から受託したジェイコム株の売買注文のコンピューターへの入力を誤り、“1株61万円で1株”の売り注文を出すつもりが、“1株1円で61万株”の売り注文を出してしまい、誤入力を警告する画面の表示も無視したという。

誤りに気が付き注文取り消し指示を3回入力したが、作動しなかった。ジェイコム発行済み株式総数は1万4500株しかなく、みずほ証券の売り注文はこの42倍に相当する。ジェイコムの株価は、67万2000円の初値をつけた後、急落し、値幅制限の下限(ストップ安)にあたる初値より10万円安い57万2000円まで値を下げた。

みずほ証券は、注文取り消しに失敗後、ジェイコム株の買い戻しを進め、大部分を買い戻したが、制限の上限(ストップ高)にあたる同10万円高の77万2000円まで上昇し、取引を終えた。。

 

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売り注文が発行済み株式総数を大きく上回るため、誤発注に基づいて売買契約が成立した投資家すべてには株券が行き渡らない。その場合<みずほ証券が投資家に対し、株券を受け渡す時期を先延ばしにするか、株券の代わりに現金を供与することなどが考えられる(準大手証券)>ということだった。

同日深夜、記者会見したみずほ証券の福田真社長(当時)は、「みずほ証券が抱える含み損は現時点では270億円だが、損失額は300億円を超える可能性もある」と述べた。

この日の市場は、<誤発注で損失を出した証券会社がある>とのうわさが広がり、証券会社や大手金融グループの株式を中心に売られ、株価は全面安となった。

日経平均株価(225種)は前日比301円30銭安の1万5183円36銭と、12月1日以来1週間ぶりの低水準まで値を下げて取引を終えた。下げ幅はその年3番目の大きさだったという。

 

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福田社長は「今後は東証と入念に協議し、対応したい。発注システムが盤石でなかった部分はある。システム上の手順で東証と私たちの理解に相違があった。そのため、キャンセルが短時間にうまくできなかった。訂正できなかったことを、東証を含めて調査している」とも続けている。

<担当者がコンピューター端末に、うっかり誤入力の売り注文したため、みずほ証券では、会社の利益1年分が吹き飛んだのだ。“61万円で1株”という売り注文を出すつもりが、指先のミスなのか“1円で61万株”と入力した>。

たったそれだけのことである。しかし、<コンピューターは“1円”の売値が市場価格から離れていることを警告したが、担当者は無視して作業を続けた>とある。
ふだんから慣れた作業なので、その警告も珍しいものではなかったのであろう。
そして、訂正もかんたんにできるとの認識だったのかもしれない。

この事件の前年には、耐震強度の偽装事件が起きていて、元1級建築士の不審な設計に気づいた別の設計事務所が、検査機関に注意を喚起している。それでも検査機関はこの警告を放置した。なんだか、最近もそのような事件があったような気もするが・・・。

<プロヲナノルノハイカガナモノカ>。
いつの時代も、そう電報を打ちたいプロが多すぎるのではないだろうか。