師匠を選ぶのも芸のうちとか
アメリカの人気スポーツはフットボール、野球、バスケットボール等の印象だが、世論調査ではアメフットが約4割の人気を保つという。そして、かつてトップだった野球は1割未満だとか。
人気急上昇なのはサッカーで、国民の半数が楽しみにするまでに成長しているらしい。そのけん引役は女子代表チームで、ワールドカップで4回の優勝、オリンピックでも金メダルを4回獲得。いずれも史上最多だ。
さて、日本のプロ野球を大人気にしたけん引役といえば、やはり長嶋茂雄選手であろう。1959年6月25日に行われたプロ野球初の天覧試合は、巨人と阪神の戦いであった。
不振が続いた長嶋選手は買い込んだスポーツ紙の見出しに<長嶋サヨナラ本塁打>と書き換え、自らを奮い立たせた。その効果なのか、長嶋さんは村山実投手からサヨナラ本塁打を放ち、巨人を勝利に導いた。
立教大学で同期の長嶋茂雄さん・杉浦忠さん・本屋敷錦吾さんは「立教三羽ガラス」と呼ばれ、東京六大学野球リーグでの長嶋人気はものすごく、常に観客は満員であった。かたや、当時のプロ野球の球場はガラガラだったと聞いたことがある。
卒業後、長嶋さんと杉浦さんはともに南海ホークスへ入団する予定だったが、長嶋さんは直前に巨人へ行くことになった。そして、プロでも長嶋人気が沸騰してスーパースターへとなる。私も幼い頃、長嶋ファンになってから野球のファンになった記憶がある。
どの世界でも、人気者のヒーロー、ヒロインがいるとジャンル自体が活気づく。
1974年、(風刺の利いた新作落語で人気を博していた)落語家・笑福亭松之助さんの元へ、ひとりの高校生が訪ねて弟子入りを志願。
何でワシのとこなんかに来たんや? と尋ねる師匠に、若者は遠慮をせずにはっきりと答えた。「センスよろしいから」と。
師匠は腹を立てるどころか、「おおきに」と弟子入りを認めた。<師匠選びも芸のうち>。落語界の格言だという。その弟子が後の明石家さんまさんである。
若者の達者な話術はテレビ向きだと見抜いた松之助師匠は、お笑いタレントへの転身を勧めもした。今のさんまさんを見るたび、あの師匠の慧眼が思い起こされる。
師弟の関係は芸の道にかぎらない。ある野球少年のあこがれはイチロー選手だった。進学した中学校でも当然に野球部・・・と思いきや、なじみのないバスケットボール部に誘われた。
その顧問の熱い口調に、少年の心が揺らされることになる。君はNBAに行ける! 最高峰のプロバスケットボールで活躍できる大器なのだから・・・と。
とはいえ、初めはお手玉続きで滅入っていた少年だったが、10年足らずで指折りの選手に成長した。少年は日本人初の(NBAドラフトで)1巡目指名を受けた八村塁選手である。
よくぞ原石を磨いてくれたことと、師の見る目にも頭が下がる。師匠選びの巧みなのか、弟子選びの巧みなのかはわからぬが、とても痛快な話である。