映画向きな情緒的時間帯とは
“深夜”のイメージは人それぞれでちがうだろう。飲み歩いていた頃は終電を意識する午後11時から午前0時過ぎくらいが深夜だった。今はもっと遅い時間になっている。
深夜に日付や曜日がからむと、その日が始まる午前0時から夜明け近くまでか、当日の夜遅くから日付が変わるまでが深夜、とのとらえ方がある。
新聞記事などでは、午前0時を過ぎてからは深夜ではなく“未明”と表現することになっているらしい。「夜がまだすっかり明け切らない時」との未明は、日の出を基準にした言い方である。そして、未明から“朝”への変更時間は季節により変動する。
“白昼”といえば“まひる”のことであり、昼の最中の正午頃を指すのか。そのことではっきりとした定義はないらしい。通常は“日中”、“昼間”などと日が出ている間を強調している。
白昼は、「白昼堂々と行われた・・・」のように特別なことやドラマチックな場面に使われる。
白昼とは別の言い方で“昼下がり”がある。こちらは、「正午を少し過ぎた頃」との解釈で午後1時から3時頃や、“夕方前”までなどとイメージが絞りやすい。
また、“昼下がり”と“白昼”は、情緒的側面を持つ言葉なのであろうか映画や小説のタイトルにもよく使われる。
<どんなにつまらないと思う映画にも必ず一か所は面白いところがある。だからそこを売るんだよ>。映画評論家・淀川長治さんの言葉だという。映画宣伝に携わる方へのアドバイスであった。
予告編作りでは、あくまでも“本編の中のシーンのみ”を選択しなければならない。そして、宣伝マンのボキャブラリーは新たな日本語をも創造する仕事である。面白そうなシーンを選択する際、大先輩である淀川さんの言葉が今も生きているという。
映画字幕翻訳者・戸田奈津子さんは、やって来る志望者たちに<あなたは日本語が出来ますか>と問いかけるそうだ。字幕翻訳は「1秒で4文字、最大文字数縦2行20文字が基本」なのだという。いかに内容が伝わるように日本語化するか、頭を悩ます仕事なのである。
(原題名とは別の)日本語題名の作成も観客動員に直結する大切な作業となる。昨今はカタカナ題名が多いとのことだが、ウケ方にも流行があるのだろう。
かつての作品では、「Love is a Many‐Splendored Thing(愛は多彩なものです)」に『慕情』、「Summertime」には『旅情』という邦題が付けられた。どちらの言葉もそれ以前にはほぼ存在しない日本語だったというから驚きである。
邦題との逆パターンとして、1980年代に夏樹静子さんの『Wの悲劇』が米国で出版され題名を変えられた。それは『Murder at Mt. Fuji(富士山殺人事件)』なのである。もちろん、富士山が舞台の小説ではないのであるが。