大人の月9主演 やはりあの人
人気の高いBS番組のひとつ『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS月曜夜9時放送)は、酒好きが愛してやまない番組であり、酒飲みの間では「月9」とまで称されているとか。
月9でトレンディドラマを見ていた世代が年齢を重ね、BSの月9を見ているのだ。
番組当初は、ひとつの店を15分で紹介するミニ番組として放送されたが、じわじわと人気を集め、現在は1本の新作に3本の再放送を加え、4本立ての1時間番組として放送されている。各回15分で、紹介されるお店は4店である。
画面上には料理と酒が次々に出てくる。再放送の3本は“3年前から昨年までの同月”に初放送されたものだ。季節を合わせることで、酒場の詩人・吉田類さんの服装や、町の雰囲気、旬の食材も変わらないため違和感がない。なかなかの心憎い計らいである。
楽しみにしている視聴者たちは、月曜の夜9時に自宅が酒場になるそうな。テレビ画面の吉田類さんといっしょに酔い、自宅で“酒場”の雰囲気を味わうのだという。
画面の中の料理もおいしそうで、自分がその場にいて飲んでいるような気分になれる。
私の場合、リアルタイムの視聴はまったくないが、家族が寝静まった夜中に録画を観て類さんと楽しく一杯やっている。
気を遣う宴会をさっさと切り上げて、家に戻り類さんを肴にひとりで飲み直す人もいるようだ。たしかに、そういう人たちをうれしく酔わせてくれる番組なのだろう。
番組はほとんどが、酒場の雰囲気と吉田類さんを映した映像による構成だ。
類さんが、夕方の5時くらいに店を訪れると、まだ明るいうちから常連さんたちはほろ酔いである。昭和の時代を生き抜いた人たちのたくましさも感じる。
『吉田類の酒場放浪記』のヒットから、次々と酒場番組が生まれては消えた。
生き残っている番組には共通点があるそうだ。それは、出演者が“おじさんひとり”であり、居酒屋の達人だということ。
吉田類さんらの後を追って制作された酒場番組では、俳優やタレントが出演されていた番組もあったらしいが、話題にはならなかった。
出演者が多くなればトークショーになってしまい、酒場を疑似体験する番組ではなくなってしまう。番組ファンにとって期待したいのは、酒場の疑似体験であり、その場に溶け込んでくれるおじさんが一番なのである。
その点、吉田類さんは途中から“ろれつ”が回らなくなったりしておもしろい。酒場には必ずいるというようなキャラである。それはもしかしたら、自分かもしれないと考えながら見てしまう。そのリアリティがウケる要因のひとつ、ともいえよう。
そして、私の大好きなシーンがある。
各回の最後で、酒場をあとにする類さんの後姿がスローモーションに変わる。
そこに類さんの俳句がテロップとナレーションで重なる。
吉田類さんの詠む“酒場俳句”は、どの句もすばらしいものばかりで惚れ惚れする。