「時」とは魔法のようなもの
2006年のトリノ冬季五輪スピードスケート女子500メートルで、岡崎朋美選手は0.05秒の差でメダルに手が届かなかった。
それを伝える当時の新聞記事の形容が、とても印象深かった。
25億円分の1円玉を1枚ずつ積み上げていく。それが空の高みに立つと、はるか眼下に地上は霞んで見えるほどだという。
24億9999万9999枚を積み、手のひらに残る1枚。その1円玉ひとつを置き換えて、“0.05秒”という時間が「4年という時間の約25億分の1」になるそうだ。
ときに勝負の神様は非情でつれない。時間というのは不思議なもので、記憶をとどめずに過ぎていく1日がある。印象が薄く思い出せない1年もある。
そして、25億分の1。人々の胸に刻まれる0.05秒もある・・・のだと。
七曜(しちよう)とは1週間の曜日のことであり、太陽と月に火・水・木・金・土の5惑星を合わせた名称でもある。
<おかげさまで、月月火水木金金の忙しさです>。
古き昭和の時代には、商売のこんなあいさつが聞かれた。
土日が永遠にこない1週間の言い方であり、戦時中は厳しい訓練の日々が軍歌にうたわれた。
戦後の高度成長時代では、モーレツに働くことがたたえられ、その価値観はつい最近までしぶとく残っていたかに思える。
アリという生物は、効率よい“休み”の取得により集団の絶滅を防いでいるようだ。
アリの集団には常に2~3割働かないものがいる。しかしサボっているわけではなく、働くアリが疲れてくると代わりに動き始めるらしい。休まないと、群れも個体も衰弱する。
休みは職場だけのことではなく、個々に子育てや介護に追われ、その先には危機が深まっているようにも感じる。
月火水木土日日・・・と。すでに週休3日制を始めた企業もあるとは訊くが。
地球環境を語るとき、引き合いに出されるクイズがあるらしい。
ある池では蓮の葉が1日たつと2枚に増える。2日で4枚、3日で8枚・・・。
計算すると、30日で池は覆い尽くされることがわかった。
それでは、池の半分が蓮の葉で埋まるのは何日目だろうか?
答えは、“29日目”なのである。
破局の瞬間が翌日に迫っている。それでも<まだ、半分残っているさ>と、たかをくくっているうちに手遅れになるのが、地球という名の池。
近年の大災害や各国を治める者たちを見るたび、このクイズをジョークとして受け取ることはできない。