日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

大雪の中に熱海駅で乗ったタクシーの運転手さんは反骨精神あふれる勇者であった

 

大雪の土曜日、私は熱海にいた。車で来るつもりだったが、朝から雪が降り積もり始め、車をあきらめた。電車はまだ動いていたので、とにかく熱海へ向かった。小田急とJRを(小田原経由で)乗り継ぎ、熱海まで少しの遅れだけで無事に着いた。昼前だったので、駅前にあるお気に入りの寿司屋で酒の熱燗を飲みながら食事をした。

その間も、雪はどんどん積もり続けていたため、観光もままならず適当な別の店に入り、予約しているホテルのチェックインの時間待ちで過ごした。もちろん、私たちだけでなく多くの観光客も同じ状態でごった返していた。予約のホテルは熱海駅からJR伊東線で3分の隣駅である。その線は、私たちが熱海に着いたときすでに大幅な遅れのため、ホームに人があふれていた。

雪の状況で、チェックインより早い時間に行きたい、とホテルに電話を入れて、すぐに熱海駅からタクシーで向かうことにしたが、時すでに遅しであった。タクシー乗り場にはすごい行列ができていた。

 

644 645

 

電車は大幅に遅れたまま、いつ来るのかわからない状態であった。バスはすでに運行中止。もう頼れるのはタクシーしかなかった。乗り場の行列はどんどん増えていくばかりであるが、タクシーの発着はほとんど途切れず車両の数も多い。多くの客が同じ状況で、近くの宿泊地と駅の往復ばかりなのであろう。

30分待ってやっと乗れることになったタクシーに、目的のホテル名を告げたらあっさりと断られた。熱海の地形はほとんどが山で平地が少ない。急坂もかなり多いのである。今回は初めてのホテルで所在地の勾配などわからないが、断り方を見て相当の山なのかもしれないと感じた。

ホテルに電話したとき、「本日、タクシーで2組のお客さんは入っております」と言っていたが、今は雪の積もり方がひどくなっているのかもしれない。とりあえず、次のタクシーに運命を託した。その運転手さんは何事もないように、快諾してくれた。乗り込んで、前のタクシーに断られたことを話したら「とんでもない奴だなぁ。ぼくは今日そのホテルに2回行ってますよ。雪が多くて苦労しましたけど」と笑い飛ばした。

その一言で、私はこの運転手さんに気骨を感じた。そして思った。この運転手さんを『気骨マン』と名付けよう、と。気骨とは、自分の信念を守って、どんな障害にも屈服しない強い意気、とのこと。まさに、この運転手さんそのものである。

 

646 647

 

気骨マンは運転しながらよく喋った。この天気で忙しくてたいへんでしょう?と問いかけたのがきっかけで、「どのお客さんもそうおっしゃてくれてねえ。そして、いつもの5倍くらい稼ぐんじゃない?とか」と、ため息。「実際はたいしたことがないんですよ。なんでみんな人の儲けを気にするんでしょうかね」。たしかに、この大雪の中、短距離ばかり何往復もするのは、割りが合わないだろう。

気骨マンのトークはまだまだ続く。「実は、今日ね、市役所に電話したんですよ」。急になんの話なのだろう。「直接見に来い!と言ってやろうと思ったんですが、留守番がいるだけで、だれもいなかったです。今日は土曜で休みだったんだね。あははは」。

意味がわからないで聞いていると、「タクシー待ちのとき、雪が吹き込んでたいへんだったでしょう。前はよかったんですが、勝手に乗り場を変えられちゃってさ」とのこと。そういえば、昨春に来たときと熱海の駅前ロータリーが変わっていた。そして気骨マンはそのことに憤慨しているらしい。

 

648 649

 

熱海市役所はバカだ!」。気骨マンの鼻息が荒くなった。「熱海市長もバカだ!!」ますます拍車が掛かる。気骨マンの言うことを要約すると、以下の3点に集約される。

  1. タクシー乗り場が移動して客も運転手も不便になっている。
  2. 格安大型ホテルの送迎マイクロバスが(タクシーを追いやり)最優先されている。
  3. ロータリー真ん中に住民用無料駐車場が設置され、早朝から夜中まで自家用車が置かれっぱなしである。

昨年も熱海の内情をガイドさんたちから聞いているが、かつての人気ホテルを買い取った格安大型ホテルチェーンなどのリピート客は市にとって、とても重要になっているようだ。前はロータリ外に送迎マイクロバスの発着場があった。それが、今はロータリーのメインの場所を占領している。そのためにタクシー乗り場が追いやられたのであろう。

「ぼくは4回、市役所に掛け合っているんですよ」と気骨マン。たしかに彼ならやりそうだ。「抗議に行くと2時間は座り込みですよ」と得意気に笑った。それにしてもすごい行動力だ。人当たりなどは器用でなく、損することも多いだろうが、気骨マンは裏表がない。

 

650 651

 

車は雪の積もった坂を登り、目的のホテルのある山奥の入り口にさしかかった。そこでガードマンが2人でストップをかけていた。先を行く車は雪の中でもたつきながら、Uターンをさせられていた。我らが気骨マンは運転席の窓をあけて、ガードマンに立ち向かった。

ガードマンが言うには、先の山道で大型トラックが2台、立ち往生で道を塞いでいるとのこと。何台も通れずに引き返しているのだ、と言いながら通そうとはしなかった。

「ぼくは今日、ここに2回も来ているんだ。行かれるところまで行かせてくれ」と気骨マン。ガードマンは動じずUターンを促したまま。さすがの気骨マンもここであきらめざるを得ないのか? 

すると、気骨マンは私たちのホテルの名を告げ、「行ってみなければわからないだろうが!」と言い放った。ガードマンはそのホテルの場所がわからず、年長のガードマンに聞いたが、やはりわからなかった。どちらもこの土地に詳しくないようである。そこをすかさず「だいたいトラックはどの場所で塞いでいるのだ!?」と気骨マン。

ふたりのガードマンはそれさえも確認していなかったのである。そして、オロオロしながら道を開けた。ホテルまでの道のりは何事もなかった。「ほらね」とうれしそうな気骨マン。

車から降りた私たちは、積雪で手こずりながらUターンして行く気骨マンを見送った。そして、ホテルに入ったとたん、道路が全面通行止めになったとの(外の有線から流れる)アナウンスを聴いた。

反骨精神とは、世の中の不正や因習などへ、果敢に立ち向かって行こうとする気概や心持ち。反体制は、既存の社会体制や政治体制に対して反対し、それを変革しようとすること。人間がつくった制度は人間が覆せるんだ、自分が一度その神話を破ってやろう。そのくらいの気概がないと、人生は人の後をただついていくだけのものになる。

そのことを教えてくれた気骨マン、本当にありがとう!!