日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

梅と桜で心なごむ旅の最後にガチャピン女将が登場

 

遠くはもちろんのこと、近くでも旅はいいものである。旅をしている人はいい顔をしている。その顔を見るのが私は好きだ。

熱海に来るといろいろなことがよく起きる。伊豆や箱根より熱海に立ち寄ることは少ない。熱海は通過地点で、ここに泊まったことは十回に満たないであろう。それなのに、昨年は、(後にも先にもできないであろう)VIP観光をひょんなことからできた。関係者もあることなのでオフレコであるが。

どこにいてもいやなことはいやだが、とくに旅では楽しいことを残したい。旅のよい想い出は自分へのおみやげかもしれない。

雪の影響もわからないので、早めに戻るため熱海の駅前で昼食をとって帰路につこうとした。そこに、旅の終わりのどんでん返しが待っていた。

 

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ちょうど昼食時のため、前日同様に飲食店が混み始めてきた。多少待つのはしかたがあるまいと、お店を物色していたら、細い路地の入り口にひっそりと小さな看板が出ていた。古い小料理屋のランチのようである。小料理屋のランチはお得という先入観もあり、思わず期待させられる。さて、店内に入ると、ほぼ満員であったがなんとかカウンターに座れた。

まわりを見渡すと、客数のわりになにか変である。静まり返っておかしな雰囲気がある。若いカップルや若い女の子たちもいたが、弾む会話も聞こえない。カウンター10席と座敷4つ。とくに広くもないふつうの飲み屋さんである。奥のカウンターでは中年の夫婦が熱燗で一杯やりながらお代わりをした。すぐに出てくるかと思いきや、なかなかこない。イカの塩辛も追加注文していたが、いつまで待っても来ない。

昼メニューの定食は刺身、天ぷら、煮魚の3種類のみ。すべて1100円である。私たちも熱燗を注文した。本来なら生ビールなのであるが、寒さのためどうしても熱燗になる。そして、刺身定食を注文した。先に来ている右隣のカップルは、なにも出ていないままおとなしく待っている。

そして、ふつうに会話しているのは私たちだけで、他のお客さんは委縮したように静まり返っている。店は中年女性がひとりで切り盛りしているが、新しいお客さんが来ても「時間がかかる」と言うだけ。子供連れだと、「座敷がいつ空くかわからないので、時間がものすごくかかる」、と迷惑そうな口調で待たせる。

 

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やっと座れた客が注文をしようとすると、「自分が声をかけるまで待ってほしい」と言い放つ。そして、いつまでも声をかけないままだったりで、あまりにも待たされて、黙って帰った客もいた。席が空いても遠慮して立っている客には、私たちが「座った方がいいよ」とアドバイス。店の中年女性は、気が付かないのか、わざとなのか、立ったままのお客さんに声もかけない。

(これはとんだおばさんだ。粗忽でガチャピンなおばさん。ガチャピンおばさんを略してGPO。勝手にイライラしている。恐るべしGPO!)

私の脳は、ガチャピンおばさんの情報に関する回路を、勝手に組み始めている。

かつて景気のいい時代に、どこの飲み屋さんも大繁盛して、席をとるのがたいへんだった。そのとき、よく立ちはだかったのが、「おねえさん」と言わなければ、決して振り向いてくれない強者(つわもの)の年輩女店員たちだった。なぜか、あの時代の店を思い出した。

「あんたがもたもたするから、私はたいへんな思いをしているのよ!」

ついにGPOは店員とおぼしき料理人に八つ当たりした。そのことでGPOは店員ではなく、そこの女将だと知った。ガチャピンなおばさん、ガチャピンな女将。いずれにしても、GPOで語呂は合う。

 

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さんざん待たされた奥のカウンター夫婦の熱燗と同時に、私たちの熱燗は早めにきた。定食に付くお新香もいっしょであった。右隣の若いカップルには、やっとお新香と味噌汁とごはんが置かれた。女将は、私たちに「天ぷら定食でしたよね?」と聞いた。「ちがいますよ、さっき言いましたよね!」と私。声を大きめにしてである。文句を言う客が優先。GPOみたいなこういう性格は、得てしてそうなのである。

お新香をつまみに酒を飲み始めたら、すぐに刺身が出てきた。静かに待っているお客さんより断然早い。右横のカップルには、まだメインのおかずが出てきていない。よほどお腹がすいたのだろうか。カップルはお新香と味噌汁だけで、ごはんを食べ始めていた。

こちらはまだ、ご飯と味噌汁が出ていない。GPOの頭の中は混乱のままだろうから、忘れられるといけない。酒も残り少なくなっているので、大声で催促をした。そしたら、すぐに出てきた。右隣のカップルの天ぷらが出てきたのもちょうどそのときであった。

 

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悪いのはGPOの手際の悪さだ。

  1.  段取りの悪さ。
  2.  優先順位がバラバラ。
  3.  勝手にパニくる。
  4.  だれもがみんな目撃者で被害者。

私たちは食べ終え、代金を確認しようとしたら、まだ女将はパニックの渦中。食事の単価は1100円ですぐわかるが、酒はいくらかわからなかった。わかっていれば、金を置いてさっさと出たいところだった。

GPOはあわてながら、計算をするから少しお待ちくださいというつもりだったらしいが、呂律のまわらぬ口調で「ちょっと待て!!」と発した。

これには店内大爆笑で、お客さんたちも初めてなごやかな雰囲気になれた。私たちはいろんなお店で場数を踏んでいるからかまわないが、楽しかった旅の最後に、おとなしいお客さんたちが、いやな想い出を残して帰ってほしくない、と切に思った。

お客さんはそのことがよくわかっていておとなしく待ちながら、GPOの顔色を窺っている。料理人の店員さんだって女将よりもたいへんな仕事をよくこなしていると思う。新鮮なネタで量も多かった。ただ、女将が担当のご飯は柔らかすぎて、味噌汁は煮詰まっていた。お客さんも、店員さんの料理もいいのに、すべて引っ掻き回しているのは約一名であった。

私たちが店の外に出たときも、小さなお子さん連れやカップルたちがまだ並んでいた。ぜひ、ガチャピン女将のGPOには、お客さんたちの『旅の演出』へ気を遣っていただきたいものである。