日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

あこがれは人生の先輩なのか

 

ワープロやパソコンが一般化する前、ひらがなタイプライターを使ったことがある。今のパソコンキーボードと配列は同じく、アルファベットとひらがなを併用したものだ。打ち込みが新鮮で、ひとり悦に入った。

そのうちワープロが流行り、日本語入力は「ローマ字」と「かな」の2方式が中心になった。富士通が開発したかな入力方式「親指シフト」も人気を博したらしいが、今はローマ字入力が多い。

現在は、スマートフォンの普及でキーボードを打てない若者もいるという。新入社員の変化に戸惑う企業の人事担当者は、左右の人さし指でキーを探し、ポツリポツリと打つ人が増えている、という。

スマホだけでリポートを書く学生もいるが、学生のパソコン所有率は下がり続け、今や4割程度だとか。

 

 

キーボードを打ち込む音が社内の活気を呼ぶような気にもなるが、今の職場ではやはりパソコンが主流なのだろうか。

社員にやる気のない会社はトイレが汚いとの話をどこかで訊いたことがある。銀行マンは取引先の会社を訪ねるときは、3つの点に注意するとか。それは、「トイレ・予定表・廊下」だ。

社員の振る舞いは、業績を映す鏡なのだという。商品や伝票は廊下に山と積まれ、予定表には雑なスケジュールしか書かれていないとか。そしてトイレの清潔度などを測るらしい。

<健全なる猜疑心>。いかなる取引も疑ってかかるのが銀行業界の基本である。

猜疑心といえば、ある落語家を連想する。三遊亭円朝さんである。日本語による近代的な小説のさきがけとされる『浮雲』を書いた二葉亭四迷さんは円朝さんの落語を参考にした。

江戸時代の終わり、世に出た円朝さんの『牡丹灯籠』は明治のはじめに速記から活字化された。今の日本人にもわかりやすい語り口には感嘆する。

 

 

『牡丹灯籠』をはじめ、円朝さんの新作落語は数多い。旺盛な創作力の背景には、猜疑心の絡みもあるらしい。

若くして真打ちになった円朝さんの人気を、師匠の二代目・円生さんが妬んだ。そして、たびたび弟子の演目を先取りした。今で言う“パクり”である。

そこで円朝さんは、師匠が自分の物にできないような、オリジナルの噺を披露していく。結果として、円生さんは円朝さんの才能を開花させるのであるが、“不世出の名人”と呼ばれる円朝さんだからこそ成し遂げた芸である。

昔の人の話はとても興味深い。昔かたぎは筋金入りといえば俳優・笠智衆さんであった。
<明治生まれの男は泣かない>。あの小津安二郎監督に、『晩春』の脚本にあった慟哭シーンの変更を願い出た。

この話も有名だ。映画の『寅さん』シリーズで、柴又帝釈天の住職を演じたとき、松竹が用意する車に乗らなかったという。

<僕は電車が好きなんです>と言い放ち、東京の柴又から鎌倉市大船の自宅まで東京湾を半周して帰っていた。

住職の笠さんは写真を撮られるとき、真面目な顔つきで「バター」と言う。よく似た黄色い箱が定番のチーズとバターだ。そのネタは寅さんも使っていた。