北風よりも太陽の決めゼリフ
白熱する高校野球を観ようと、テレビのチャンネルを合わせたら国会の中継だった。
すぐにチャンネルを替えようとしたら、おもしろいやりとりだったのでそのまま見入った。
参議院予算委員会である。新国立競技場の質問で、民主党の蓮舫代表代行が、総理をはじめ、文部科学大臣、東京五輪大臣、日本スポーツ振興センター理事長らを相手に、ツッコミの入れ放題であった。いい歳をした大臣たちは、まったく余裕がなく反論もままならない。
見積もりの話では、センター理事長らが<2100億円と見積もっていたとき、ゼネコンは3000億円ぴったり>に見積もっていた、との答弁であった。その差額の900億円はどこでどうなっちゃうの? だれでも気になるだろうが、当人たちはなんとも思っていない。
その無頓着さがおもしろいように指摘され、なにかを言い返そうとすれば、魔法の言葉で、もうなにも言えない。
「それはいったい、どなたがお支払いされるのですか?」。
この一言で彼らはなにも言えないのである。強い言葉をぶつけられれば、それなりの反論もできるだろうが、まさにイソップ寓話のひとつである『北風と太陽』の如しである。
ひと月前の朝日新聞記事で、2520億円というお金で何が出来るかという内容のものがあった。政府の試算では、5歳児のうち認可保育園か幼稚園に通う約99万人を無償化するには2797億円かかるとした。しかし、年収680万円未満の世帯に限れば1273億円で実現できるそうだ。
東日本大震災で被災したJR大船渡線と気仙沼線は、津波対策などを施したうえでの復旧をするには、1100億円が必要だとJR東日本は見積もっている。公的支援を求めているが、国は難色を示したままとか。
あのマツダスタジアム(広島市民球場)の建設事業費は約90億円だという。
新国立競技場だけがなぜこんなに高くなるのか、納得できる説明がまったくできていない。
新国立競技場の白紙撤回も遅すぎた。
当初予定の1300億円が2520億円に倍増し、世論は猛反発。安保問題で内閣支持率も落ちる一方のため、やっと動いたという感じである。
五輪の過去3大会のメイン会場の建設費は、1000億円を大きく下回っている。それが過去に例を見ないほどの巨費に膨れ上がった。予算を増やすのは勝手だが、いったいどなたが支払うの?
国会で面と向かって言われるとなにも答えられないのに、裏でこそこそはお得意のようである。スポーツ専用施設ではなく、商業施設にしようとしたことに問題がある、との声もきこえるが、どのような利益を画策されていたことであろうか。
この白紙撤回で、ドブに捨てる形のムダ金も発生しているという。設計者のザハ事務所やゼネコンに発注・支払いをすでに済ませており、回収困難と試算されている金額は約60億円なのだという。
現政権の誕生で、各地の公共事業費は高騰傾向にあるらしい。資材や人材の不足で建設費が全国的に上昇してしまった。それが新国立競技場の建設費高騰の原因と認定された場合、ザハ事務所に最大100億円の損害賠償金が支払われる事態となるかもしれないのだ。
そのお金はいったいどなたが支払うの?
いまだにコスト削減方針すら決まっていないまま、1800億円程度にとの悲観論も出ているらしい。
また、建て替えの必要性がないような“JSCビル新築計画(165億円)”や二重投資と批判される“オリンピックアクアティクスセンター(水泳競技場)”の建設などと、あきらかに五輪へとかこつけた“ぼったくり事業”も、その後はどうなることか。
この件も、国会でツッコまれていたが、返答はまったくなかった。
だまっていても、この人達には<「増税」、「値上げ」>という強い味方が付いているからなのであろうか。