魚屋のネコの如く盗らぬこと
正面に北の富士勝昭さん、向正面は舞の海秀平さん。お二人は、NHK大相撲中継で大人気の幕内解説コンビである。とくに北の富士さんのお話は、わかりやすくておもしろい。
2015年夏場所10日目、横綱・日馬富士戦で初金星を手にした平幕の臥牙丸は、インタビューで歓喜のあまり「ボク勝ったの? 信じられない。金星は一生残るし、めっちゃうれしい。神様、ありがとう」と神様にお礼を述べた。
「これだけ喜ばれたら(負けた)日馬富士も本望だろうね」とは、北の富士さんの名解説。ちなみに、取り組み後の日馬富士は「こっちが泣きたいよ」とこぼしたとか。
「モンゴル勢にたらい回しにされてかなわないよ。“俺が!”、と名乗りを上げるやつはいないのか。1場所ぐらい、日本人に勝ってほしいね」。
2016年1月、新年への期待を報道陣に問われ、北の富士さんは嘆いた。
日本勢には遠すぎる賜杯であった。
協会に所属する631人の全力士のうち、外国出身者が占めるのは38人だけだ。
10年も日本人の優勝者が出ないのは異常と言わざるを得ない。無念であった。
その数日後に初場所が始まり、大関・琴奨菊(当時)が14勝1敗で、ついに初優勝を決めたのである。
白鵬35度目の優勝は2015年 名古屋場所で14勝1敗。自身が持つ幕内最多優勝記録を更新する2場所ぶりの優勝で、それまでからペースダウンしたようにもとられた。
千秋楽の優勝インタビューでは、場所中に「力が落ちていますね」と語った解説者の舞の海さんを意識して、「寂しい言葉は言わず。温かい応援をしてほしいと思います」と発言した。
NHKの中継カメラは慌てる舞の海さんを映し出す。
解説を担当している北の富士さんは、「出色の場内インタビューだった」と白鵬の率直なコメントにエールを送った。
さて、一昨日は秋場所(2017年)の初日であった。
休場力士の多い場所にも関わらず、(私は)早い晩酌がてらテレビ観戦をした。
北の富士さんと舞の海さんの快活なやりとりは、益々おもしろくなっている。
大関・照ノ富士が平幕の北勝富士に引き落としを食って苦杯をなめた。
その取り組みが始まる前と後の両者の解説は絶妙であった。
先場所の北勝富士は前まわしをとって勝てたが、組み合ったら照ノ富士に分がある。
その話をする北の富士さんの“喩え”には大笑いをした。
<魚屋のネコの如く、盗ってはダメ>。
“魚”と“前まわし”を掛けての発言であった。
土俵上の北勝富士に聞こえるはずはないだろうが、立ち合いすぐに照ノ富士の前まわしに手をかけそうになったが、すぐに離した。そして、組み合うことのないまま北勝富士は快勝した。
勝負後、舞の海さんは北の富士さんの眼力にしきりと感心しながら、「それにしても魚屋のネコですかぁぁぁ・・・」と絶句していた。