日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

チャンネルをまだ回してた頃

 

“消える魔球”は本当にあるという。
遠近両用の眼鏡をかけてキャッチボールをすると、機能の異なる二つのレンズの境に球がさしかかったとき、消えて見えるらしい。高齢者野球を取材した新聞記者が書いていた。

巨人の星』の伴宙太は魔球を捕るのに特訓を要したが、古希を過ぎた人たちが難なく捕球するというのである。長年培ったカンなのか。それも、脳の指令が運動神経に正しく伝わってなせる技だといえる。

巨人の星』を知らない世代がほとんどかもしれない。
それでもマンガを超えた現実が今起きている。大谷翔平選手である。

日本ハムの4年ぶり7度目の日本シリーズ進出。最後を締めたのは3番・DHでスタメン出場していた大谷翔平投手だ。打者3人に対して15球を投じ、自身が持つ日本プロ野球記録を更新する165キロも3球投げ込んだ。

 

1707

 

作家・村上春樹さんが、小説を書く仕事は実に効率が悪い、とエッセイ『職業としての小説家』に記している。

また、<非効率な中にこそ真実・真理が潜んでいる。効率の良いもの、悪いもののどちらが欠けても、世界はいびつになる>とも述べている。

未来の住民たちは“ニュー・スピーク”という、極めて短い言語をあやつる・・・のだと。
ジョージ・オーウェルのSF小説『1984年』にある。
この67年前の作家の予言は、少なくとも日本では的中したようだ。

ヤバッ、ムカッ、むし…。そんな“ニュー・スピーク”が蔓延り、スマホのLINEやパソコンなどを使ったいじめが後を絶たない。

本当に“ムカッ”と感じているのか、本当に“むし”でいいのか。人生がまだ短すぎて、言葉とその使い方を知らないだけだと思いたいが。

テレビでは秋の連続ドラマが続々始まっているが、ヒットの基準は、視聴率が10%を超えるかどうかにまで下がっている。低迷の理由として、ドラマがつまらなくなったのかどうか。テレビに代わる効率の良いものがスマホなどのメディアということか。

 

1708

 

<チャンネルをまだ回してたころだつた家族は丸く小さく座つた>(目黒哲朗さん)。

昨年亡くなった八代目橘家円蔵(月の家円鏡)さんの絶頂期の売れっ子ぶりは伝説になっている。

「円鏡です。飛ぶ鳥を落としています」。永六輔さんはそう挨拶されたことがあると書いていた。寄席の高座に上がるや、第一声で笑わせたこともある。「ああ、テレビ局からテレビ局へ忙しくてしょうがない。ここで休ませてもらお」。ギャグのようでいて半分は本音であった。

大相撲のテレビ中継は終戦の8年後、1953年に始まった。
「それからですね、土曜日曜が必ず『満員御礼』になったのは」。昭和の名横綱、初代若乃花花田勝治さんが述懐していた。それ以前は「よく入ったときで半分そこそこ」だったと。

戦前のラジオ放送開始のときも観客が急増したという。
観戦の疑似体験が実体験への渇望を呼び覚ましたのだろう。

書物や映画でふれた風物を求めて旅に出る人もいる。
そうかと思えばパソコンやスマホを眺めるばかりの者もいる。昔ながらの媒体に比べ、インターネットは実体験に誘(いざな)う働きが強くないのかもしれない。