日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

過ぎ樽は山崩し 杭なきように

 

酒屋さんの団体「全国小売酒販組合中央会」において、組合員から預かった年金資金の8割、約144億円が投資の失敗で焦げつき、3億円余りの使途不明金も見つかる事件があった。10年前の話である。

<政治家への裏献金もあった。捜査当局には全部話すつもり>と語ったのは、1650万円を着服した疑いの元事務局長(49)であった。中央会は小売り免許の規制緩和をめぐり、傘下の政治団体を通じて政界工作をしていた時期があったという。

ウイスキーやブランデーは樽(たる)での熟成期間中、少しずつ蒸発し、量が減る。
その蒸発分を、酒蔵の職人たちは“天使の分け前”と呼んだらしい。10年間の貯蔵で中身は7割ほどに減るという。見かけによらず、天使も酒には目がないようである。

 

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さて、あのときの年金の蒸発は誰の分け前と呼べばいいのか。老後の備えを食いものにされた酒屋さんの心には、<酒をおいしくしてくれる(天使に差し上げた)酒の蒸発分>とはまったくの別物の怒りがこみ上げてきたことであろう。

こちらも10年前のできごとである。千葉県内の建築設計事務所がマンションとホテルの計21棟の耐震強度を偽装していたことが発覚した。鉄筋などの使用量が少ない安上がりの設計に仕上がれば、施工主の点数を稼ぐことができると考え、事務所は繁盛するとのもくろみであった。

 

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“山崩し”という遊びは、将棋の駒で山をつくり、音を立てぬよう1枚ずつ取っていく。歩は何点、金は何点と、駒の種類で点数が異なるという。欲を出して奥の金や銀を抜けば、山が崩れることもある。

将棋の駒ならまだしも、もし崩れるのが自分の住むマンションとくれば、おちおち寝てもいられない。問題の設計事務所は、建物からそっと金を抜く危険な“棟崩し”の誘惑に負けたらしい。21棟には、いつ起きてもふしぎではない“震度5強”の揺れで、倒壊する恐れのある建物も含まれていた。

さて、10年後の現在も、欲の体質は変わらぬようだ。
旭化成建材・杭データ不正の調査が終了とのこと。その数は計360件。現場責任者61人がデータの流用問題に関与とある。

 

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流用が最多だったのは東京都の73件で、北海道53件、神奈川県36件が続く。360件で使われた杭2万6351本のうち、9%にあたる2382本で流用が確認された。

流用に関与したのは、現場責任者196人の3割にあたる61人なのだそうだ。
傾きが見つかった横浜市都筑区のマンションの現場責任者のように、下請けから一時的に旭化成建材に出向していたケースが大多数で、正社員による流用事例はなかったとか。

最近とくに、<赤信号、みんなで渡ればこわくない>というフレーズが浮かんでくる。一昔前も今もなにも変わっていないのだろう。横領、偽装、流用などの言葉に対する、威厳や重みがどんどん失われているような気がしてならない。