富士には月見草ならぬ、菜の花がよく似合う
1年ぶりの吾妻山(神奈川県二宮町)である。厳密にいうと、昨年より6日早く訪れた。
雲ひとつない快晴であった。家から見える丹沢連峰はよく見えた。その前日も天気はよかったが、山は見渡せなかった。出かける際、確認したら富士山側は靄っているのか? 心配であった。
海老名駅で乗り換えたJR相模線は、相変わらずすいていてのんびりとできた。まずは、茅ヶ崎駅へ向かう電車であるが、車内はもうかなり暑くなっている。
そして、厚木駅を過ぎて富士山が見えてきた。うれしい。着くまでこのまま隠れずにいてほしい。
富士山は片想いの相手みたいなもの。とにかく昨年はよくフラれた。山中湖の湖畔に宿泊したときも、早朝にかろうじて雄大な姿を拝めただけで、午前中の移動ではすぐに見えなくなった。
それにしても気持ちのいい冬晴れ?である。まだまだ見える。あまり見すぎて消えてしまうといけないので、しばらく見ないようにしよう。そんな気にさえなった。
茅ヶ崎駅での、東海道線への乗り換えも順調だ。待ち時間がほとんどない。東海道線の中も暑い。ネックウォーマーをはずした。
いつの頃からなのか、桜より菜の花に春を感じるようになった。菜の花の開花時期は、2月初旬~5月初旬頃らしい。 春全体を覆うが如く、一面黄色に群生していてくれる。
大磯駅から二宮駅に向かう途中、富士山が大きく見えた。「やったぜ!」思わずボイスレコーダに吹き込んだ。昨年も公園まで登るのに暑くなりダウンコートを途中で脱いだ。
今年は薄手のダウンジャンパーだったが、やはり脱いだ。今年も暑くなった。展望台は春のように暖かい。
なめてかかると途中でかなり息を切らすプチ登山なのである。こんな時期なのに頂上で飲む缶ビールがすっごくおいしい。もちろん今年も飲んだ。昨年以上にうまかった。
平日なのに人出が多い。登る階段で息を切らして、途中休憩する人がたくさんいた。四捨五入すれば百歳(50歳代以上)の人たちが90%以上なのでしかたがない。それを考えると、みなさんお元気だ。
「こたつむり」と、友人にからかわれる寒がりの自分も、この時期にこたつ以外で暖かくなれるのは楽しい。それもひとえに菜の花と富士山のおかげである。
『富嶽百景(ふがくひゃっけい)』は太宰治さん(1909~48年)が39年、新婚時代に発表した。
天下茶屋から見える富士山の絶景を「まるで、風呂屋のペンキ画だ」と苦々しく思っていた主人公は、妻となる人との出会いで、次第に心を開き、ラストで富士山に感謝する。
「3778メートルの富士の山と、立派に相対峙(あいたいじ)し、みじんもゆるがず、なんと言うのか、金剛力草とでも言いたいくらい、けなげにすっくと立っていたあの月見草は、よかった。富士には、月見草がよく似合う」
この中の「月見草」の部分を、「菜の花」にそっくり上書きしたい気分である。
『おぼろ月夜』という歌がある。
菜の花畑に 入日薄れ
見わたす山の端 霞ふかし
春風そよ吹く 空を見れば
夕月かかりて 匂い淡し
この楽曲の歌詞もすばらしい。どういうシーンなのか想像してみる。もしも出会えるのなら、ぜひとも写真におさめてみたい。
今週のお題「僕の住む街・私の地元」