袖すり合うも他生の縁となる
もう過ぎたが、7月25日は“かき氷の日”だという。7・2・5で「夏氷」との単なる語呂合わせだけかと思ったが、1933年7月25日、山形県で当時最高気温となる40.8度を記録したことでこの日になったとのこと。なにごとも理由がわかれば頭に入りやすい。
『アヒルと鴨のコインロッカー』で知られる作家の伊坂幸太郎さんは、「小説を読んでもらうことは初対面の人に自分の車に乗ってもらうのと同じ」と語った。
車に初対面の人を乗せることは難しい。そのため、冒頭部分に知恵を絞る。はっとさせ、驚かせ、笑わせて車に乗せる。読者をひきつけようとするコツなのだ。
ネコを宿主とするトキソプラズマ原虫も知恵を駆使するらしい。これに感染したネズミは天敵であるネコのにおいを、恐れないばかりか好むようになる。
アメリカ西海岸の河口にてサギなどに寄生する吸虫(きゅうちゅう)も、幼虫の段階で鳥のえさになる小魚の脳にとりつくという。寄生された魚は水面で体を震わせたり、翻したりして鳥に見つかりやすい行動をとる。
小魚の脳の神経伝達物質を研究者が調べた。寄生された魚は不安を感じるべき状況に置かれてもストレスを感じなくなっていた。つまり、吸虫は小魚の脳を操り、鳥に食べられやすくしていたのだ。
“阿佐田哲也”という洒落をきかせた作家名で『麻雀放浪記』が出版されたとき、作家・吉行淳之介さんは、色川武大さんのもう一つの名だと直感したという。
色川さんは作家仲間と麻雀卓を囲むとき、いつも少しだけ勝った。若いころに麻雀で暮らした時代があり、玄人と悟られぬよう手を抜いていたそうな。ギャンブル論になるときも、色川さんは、ギャンブラーの虫を意識したのか“阿佐田”の名を使っていた。
日本が連合国軍占領下にあった1948年7月に、その出会いはあった。「私のコーチを受けないか」。24歳のボクサー白井義男さんはジムへ見学に来ていた外国人から声をかけられた。GHQのアルビン・カーン博士だった。
博士にボクシングの本格的な経験はない。ただ片隅で練習する無名の中堅選手が類まれな素質の持ち主だと、見抜く眼力があった。周囲の声を聞き流し、熱心に指導を受けた白井さんは、その4年後に日本初の世界王者となる。
<小人は縁に気づかず。中人は縁を生かせず。大人は袖すり合う縁も縁とする>。古くからの教訓だという。
『池の水ぜんぶ抜く大作戦』(テレビ東京系列)という番組の視聴率がいいという。カミツキガメ、ブルーギルなどの“特定外来生物”が在来の生き物を食い荒らす。その脅威に驚く。
これも縁なのか、人間の都合で一方的に連れてこられて必死に生きている彼らには何の罪もない。今になり、世界をゆるがす大問題になっている海洋汚染問題にしても、原因となるプラスチックを悪者に仕立てているようだが・・・捨てたのは人間なのだから。