中途半端なき「褒め」と「叱り」
実力派の漫才コンビ「ナイツ」の塙宣之さんと土屋伸之さんは、2002年に漫才協会に入り、内海桂子師匠の一門になった。そして07年に「寄席にも出たい」と、落語芸術協会にも入った。
その際、お世話になった師匠は(「笑点」でおなじみの)落語家・三遊亭小遊三さんでその一門に入った。まだテレビに出てない若手の頃である。小遊三師匠は、初めての“漫才師の弟子”としてとってくれたのである。
落語のお弟子さんと違い彼らは、芸を直接教えてもらうことはなかったが、「この間、番組見たけど笑っちゃったよ」などと(小遊三師匠に)褒めてもらう。そして師匠は無口で、無駄にはしゃべらない。小遊三師匠は当時から今もずっと優しいという。
「ナイツ」のネタをちゃんと見ていてくれて、要点だけ言うとあとは言わない。
師匠の芸や、協会の副会長として落語家さんたちを人望でまとめるところを見て、学ぶことは多いとのこと。
黒澤明監督は幼少時、よく泣かされていたそうだ。小学校で、「みんなのなぶり者になった」と、自伝『蝦蟇(がま)の油』に記した。そして、学校を「牢獄のように感じた」とも。
その環境を変えたのは、ひとりの教師であった。
同級生に笑われた黒澤少年の絵を褒め、三重丸を与えたのだ。
自信がついた黒澤少年は、図画の時間が楽しくなり画家を志した。
そして、映画界に定住した黒澤さんは、映画の設計図となる絵コンテやシナリオを数々描き、巨匠の原点を築いた。
くもりなき教師の目が、眠れる才能を育んだのは言うまでもないことだ。黒澤さんにとっても、この師との出会いなくして、多くの名作は生まれなかったかもしれない。
数日前に興味ある新聞記事を見つけた。
子どもの頃、周囲に褒められた経験が多い人ほど、大人になって困難な状況に直面しても、“へこたれない”傾向にある、のだと。
「国立青少年教育振興機構」の調査結果で、20~60歳代を対象の全国調査らしい。
「厳しく叱られてもくじけない」や「失敗してもあきらめずにもう一度挑戦する」などの質問結果として、「褒められた」経験が多い人ほど、「へこたれない力」が強いという。
また、「厳しく叱られた」経験の多い人も、「へこたれない」という同様の傾向が見られた。
褒められた経験や厳しく叱られた経験が少ない人の場合は、「へこたれない力」が最も弱かったようだ。
思えば自分自身、人生の先輩たちに多く褒めていただいた。その分、叱られることがあっても“訊く耳”を持って吸収できることばかりであった。
親の立場では、子どもにきちんと向き合い、褒めるべきところは大いに褒め、悪いところはしっかり叱る姿勢が重要なのだという。子どもへの無関心や放任は好ましくない。
一番いけないのは、中途半端に褒めて中途半端に叱ること。
とはいえ自分も、(人生の達人たちに)教わったことの半分も、子どもたちの世代に伝えきれていない。逆に教わることばかり。実に嘆かわしいものだ。