野心が大事と言っていた役者
ずっと好きな俳優である。原田芳雄さん。映画やドラマでたくさん楽しませてもらい、異色といわれる役者さんとの交流関係も多彩でおもしろかった。
面倒見の良さは有名で、無名の新人も原田さんから教わることが多かった。デビューした松田優作さんも、原田さんの影響を受けているとすぐに感じた。ふたりは“高倉健さんを喰う”がテーマみたいな話もしていた。
『君よ憤怒の河を渡れ』で原田さん。『ブラックレイン』では松田さん。高倉健さんと共演して、強烈なインパクトを残している。『ブラックレイン』の完成後に松田さんは若くして亡くなったが、葬儀で松田優作さんの棺桶を先頭で持つ原田芳雄さんの姿が忘れられない。
“原田居酒屋”と名付け、ご自宅を役者仲間たちに開放して、お酒を飲みながら語り合える場として提供していたという。原田さんが仕事でいないときも、仲間のだれかが飲みに来ている・・・とも。
昔のテレビドラマ『さよなら・今日は』(1973年10~74年3月)で、原田さんの恋のお相手は浅丘ルリ子さん。緒形拳さんと三角関係のような感じだった。そのドラマのラストシーンが印象的なのだ。
砂浜で原田さんと緒形さんは再会するが、言葉を交わさずに煙草の火をつけ合う。男同士のカッコよさで、妙にあこがれてしまったシーンである。
桃井かおりさんと映画の中で歌った『プカプカ』もよかった。その後、桃井さんは人気ドラマ『俺たちの旅』の中でも中村雅俊さんのギターで『プカプカ』をデュエットしていた。
思えば『プカプカ』を初めて聴いたのも、原田さんの歌だった。そして、忘れられないのが原田さんの歌う『横浜ホンキートンク・ブルース』である。今もよくユーチューブで視聴している。
この曲は、1970年代終わり、俳優・藤竜也さんがトム・ウェイツの曲にインスピレーションを受けて歌詞を綴った。それを、原田芳雄さん、松田優作さんなどが歌ったのだ。
藤竜也さんは一時期、エディ潘さんやデイブ平尾さん、柳ジョージさんなどと、チャイナタウンあたりでよく飲んでいて、「ちょっとしたレストランで仲間とライブやるから」とエディ潘さんに連れて行かれた。
そのカウンターで藤さんはライブを聴きながら酒を飲んでいたが、「お、これいいじゃん」と思う曲があったという。それが『横浜ホンキートンク・ブルース』だった。
曲はいいけど歌詞があまり面白くなかった。藤さんは酔いながら、コースターの裏か何かに“こんなのどう?”みたいな感じで書いて、エディ潘さんに渡したのだという。曲のタイトルは最初からあった。
原田さんと藤さんは歳も近く、20代の頃によく仕事していたそうだ。あるとき、「バンドホテルでライブやってるから」と原田さんから藤さんへ誘いの電話がかかり、最上階にあったナイトクラブ“シェルルーム”で藤さんはこの曲を聴いた。
<野望ではなく野心が大事>。私が若い頃に聞いた原田芳雄さんの言葉である。