日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

前向きであるための潮時とは

 

何かをやめるときによく使われる言葉に「潮時」がある。
その本来の意味は、<漁師が最も良いタイミングで船を出す際>に言ったものらしく、とても前向きな言葉なのだそうだ。

映画『男はつらいよ』シリーズがはじまってすぐに、渥美清さんは言ったという。
<ボクサーはいいよなァ、タオルを投げてくれる人がいるからね>と。
そのときには、まさか48作(26年間)も続く大シリーズになろうとは、予想もしていなかったと思われるが。

俳優業だけでなく、出処進退ほどむずかしいものはないだろう。誰しも、今の地位に未練が残る。渥美さんとしては、役者としてのイメージも(寅さんとして)固定され、他にも演じたい役はいくつもあったはずだ。

役者生活の大半を寅さんで過ごし、満68歳で亡くなられたことを思えば、まだまだ潮時でなかったのではないか。

 

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年賀状の受け付けも始まっている。この時期に思い出すのは作家・池波正太郎さんである。初夏の頃から少しずつ書き進め、千枚近く出していたという。

長く会っていない人を忘れかねないからと、直筆を大切にした。受け取られる方々を思い浮かべ、その名を記したのだろう。自作の絵も印刷で添えたそうだ。

今はLINEやメールの時代である。年賀状の購買数も年々減っている。宛名と文面が印刷という様式がほとんどかもしれない。<手書きの味わいなくしては、こめた誠意も届きにくい>という池波さんのような心構えも薄れているのかもしれない。

かくいう私も、パソコンとプリンタにお世話になっている口であるが、他方では“美文字”への関心がデジタル世代に広がっているとも訊く。年賀状の潮時も、前向きな意味で受け継がれるとうれしい。

 

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うまみ調味料の老舗“味の素”にもライバルがあるという。昭和半ばに武田薬品(当時)が発売した“いの一番”だそうだ。味の素も“ハイミー”という姉妹商品を出している。

“味の素”という商標には絶対感があるといわれる。コンブ等からのうまみ成分を抽出し、料理にふりかければおいしさが増すという機能を、その名前で語り尽くす。

それでも、“いの一番”や“ハイミー”は、お店の棚に並んでいる。潮時にはさせまいと購入を続けるファンの方々がおられるからだ。

いつの時代も、後発商品は市場に入るのに苦労をするようだ。
トヨタ自動車の「MIRAI(ミライ)」も例外ではない。水素で走る燃料電池車として、世界で初めて一般販売を開始した。高額でまだ庶民には遠い存在にせよ、いずれは地球の温暖化にストップをかける救世主へとなるべく、“ミライ”という名にその将来を託しているのだろう。

 

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燃料電池車(FCV)の“ミライ”は、排気ガスを出さない究極のエコカーとして期待される。普及には燃料の水素を供給する水素ステーション(ST)の設置が不可欠だが、安全規制が厳格で、(地価の高い)大都市圏での設置を阻んでいるとのこと。

東京都は水素STの整備に約1億8000万円を補助する制度を設け、2020年の東京五輪パラリンピックまでに35ヶ所にする予定である。しかし、現状では6か所しかない。全国でも水素STは、現在33ヶ所しかない。

高圧ガス保安法の規則が整備の進まない大きな要因ともいわれている。
一般のガソリンスタンドでも、注入装置が公道から4メートル以上離さなければならないのだが、水素STの場合は倍の8メートル以上が必要になるのだ。スタンドから水素が漏れて引火しても安全性を担保するために必要な距離なのだという。

“ミライ”の生産台数も手作業が多いため、量産ができていない。越えなければならないハードルはまだまだ多いという現状なのである。この先は、他社の奮闘にも期待が大きくなるだろう。各社の技術力を磨けば、追い越すことさえ可能になる。

今が船出の最も良いタイミングかどうかはわからない。それでも、ガソリン等の燃料が潮時だという流れは各メーカーとも発信しているように感じる。できることなら、地球を救う販売合戦をぜひ目撃してみたいものである。