自分の人生最後の日を想定
美食家で知られたフランスの法律家ブリア・サバランさんは、有名な言葉を残している。<どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるか言い当ててみせよう>。
その妹のジョゼフトさんもなかなかの人だったようだ。98歳の時、食事を終えようとして異変に襲われた。
<死にそうだわ…早くデザートを>。
ふつう医者を呼ぶのが先のはず。美食家という舌の持ち主には頭が下がる。
人生最後の日を想定して生きたのはスティーブ・ジョブズさんである。
33年間、鏡に映る自分に(毎朝)問いかけた。
<もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを、私は本当にやりたいだろうか>と。
何日も“違う”との答えが続くと、そろそろ何かを変える必要があるな、と悟る。
新しいことに挑む気概が、独創的な商品を生み出したのだろう。
2007年に発売したスマートフォン、iPhoneの世界販売台数が10億台突破した。
もし、ジョブズさんが自分との問いかけで、“違う”との答えが浮かんでこなければ、大ヒット商品の誕生はなかったはずだ。
2015年、世界のパソコン出荷台数が前年比10.4%減の2億7621万台となり、過去最大の落ち込み幅になった。
3億台を下回ったのは2008年以来だという。タブレット端末や大きな画面のスマートフォンに消費者が移行していることが主な要因なのは、だれの目にも明らかである。
ジョブズさんはウォークマンに感動しiPodを考案した。そのiPodに電話機能をもたせたらどうだろう、と誕生したのがiPhoneである。
パソコンの基本ソフトであるWindows10は、1年間無料のアップグレードを実施した。マイクロソフト社としては異例なことだ。
スマホやタブレットとの互換性が売りだったが、“2018年までに10億台”という目標も思うように進んでいない。1万7600円の有償となれば、ますます敬遠するユーザーが増えそうだ。
近年はパソコンの品質が向上し、買い替えの期間が長くなったことも落ち込みの理由だろう。しかし、“予定調和を破るほどの製品”の現れないことこそが大きな問題点であろう。
アップル社にしてもジョブズさんの没後、ワクワクするような製品は見当たらない。
かつてジョブズさんは、米スタンフォード大卒業式のスピーチをこの言葉で締めた。
<ハングリーであれ、愚か者であれ>。