おカネの重量感はどう変わる
茨木のり子さんの詩『笑う能力』のこのフレーズは、何度読んでも楽しめる。教授の元に教え子から便りが届いたそうな。
<先生 お元気ですか 我が家の姉もそろそろ色づいてまいりました>。
艶っぽい話のようだがそうでもない。<手紙を受けとった教授は 柿の書き間違いと気づくまで何秒くらいかかったか>と続く。
うっかりと間違えた漢字も文章の脈絡へ絶妙に嵌るからおもしろい。
さて、この漢字はどうだろう。“測、図、謀、量、計、諮・・・”。「はかる」の読みを持つ漢字であるが、何かをはかる行為の多さに驚いてしまう。
お金の重さを量ったことはないが、工場から出荷される百円玉は4千枚ずつ袋に入り、ひとつ約20キロもあるという。新札で1億円は約10キロらしい。
運ぶ手間もたいへんだろう。銀行も低金利や人口減での経営は厳しい。メガバンクのATMの相互開放も、そのひとつなのだという。少しでも負担を軽くしようという動きが出て当然だ。
ATMは1台約300万円というから新車なみ。(試算では)維持や管理にかかる費用は全体で7600億円とのこと。そして重たいお金を運ぶ必要もある。どう考えても、キャッシュレスの方がよさそうである。
私はガラケーの電話の時代から、コンビニや電車利用で現金を使わなかった。買い物や飲食店ではカードで済ませていたので、財布からお金が出ていかず貯まる方が多かった。当然、引き落としで引かれるが、赤字にしないようにチェックは欠かさない。
あれから、今のキャッシュレス時代になっても変化を感じない。各企業が自分のところへ囲い込む企みで、〇〇ペイ、△△ペイと分散してまとまりがないため、店舗も客もちぐはぐなのである。
中国では銀行口座とひも付けされたスマホの支払い用アプリなしに、生活は立ち行かない。欧州では路上の芸人さんへのおひねりも電子決済だとか。きっと、日本みたいに乱立していないからこそ為せる技だ。
人工知能(AI)を活用した無人店舗にも興味が強い。構築サービスを手掛けるアメリカのある企業では、入店して商品を手に取り、店を出るだけで決済が完了する。
店舗内に設置したカメラの画像解析技術とAIを組み合わせ、来店客の一人ひとりを「カート」として認識するのである。
来店客が商品を手に取ると、カートに商品が入ったと判断、商品を棚に戻すとカートから商品が取り除かれたと認識する。まるで、ネットでの買い物みたいだ。
店内の商品は、AIが形状やパターンを学習。決済との連係は専用のスマートフォン向けアプリを通じて行う。そして来店者がアプリを起動すると、画面全体が一瞬赤く光る。これを店内に設置したカメラが捉えると、連係が完了。
商品を手に取り、退店するだけで、アプリに登録しているクレジットカードで決済が完了する。新バージョンでは、スマホを取り出す必要すらなくなるという。もう、現金が介入する余地はまったくなさそうだ。