日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

2パーセントを攻める伝統芸

 

先日、『大脱走』という映画がテレビ放映されたので録画をして観た。1963年に公開された(戦闘シーンのない)集団脱走を描いた戦争映画である。リアルタイムの映画館では観ていないが、レンタルビデオの時代に借りて観たのだと思う。

内容は観て知っている、とずっと思い込んでいたが、ストーリーに記憶違いがあった。スティーブ・マックイーンがドイツ軍から奪ったオートバイで、追手を振り切る有名なあのシーンはラストで、見事に脱走できた・・・と勝手に勘違いをしていたのである。

ところが捕らえられていて、収容所へ逆戻りであった。記憶とは実に曖昧なものだ。

こちらも戦闘シーンの登場しない戦争映画であった。『戦場のメリークリスマス』(1983年公開)である。『大脱走』と同じく、先の戦争を背景に敵と味方の間に芽生えた友情を描く物語である。坂本龍一さんによるテーマ曲は今聴いてもすばらしい。

 

 

ビートたけしさんが演じる捕虜収容所の軍曹ハラと、捕らわれの英兵は心を通わせるが、終戦で立場が逆転してしまう。クライマックスは、戦犯となり処刑を控えたハラの房を英兵が訪ねるところなのか。

<勝利がつらく思われるときがあります>。涙で頭を下げる英兵の場面がそこにあるらしい。たけしさんのすごみのある笑顔がアップで映っていたと思うが、ストーリーは私の頭の中でつながらない。

2人は戦争ゆえに出会い、そして引き裂かれた。大島渚監督は強い反戦の訴えとともに、争いのただ中でさえ魂の交わりを深める人間の姿をも強調したかったようだ。

印象的なシーンといえば、英軍少佐のデヴィッド・ボウイ坂本龍一さん演じる大尉の頬にキスをするシーンと、存在感があるたけしさんの荒削りな演技であった。

撮影完了後、大島監督はたけしさんにお礼の挨拶をするためテレビ収録現場へ伺ったという。“タケちゃんマン”に扮した たけしさんが出迎えたらしい。

 

 

子役時代はテレビでお見かけしたが、生の舞台で観ることは叶わなかった。18代目中村勘三郎さんである。母方の祖父に6代目尾上菊五郎さん、父は17代目中村勘三郎さんと、名優の血を引く“歌舞伎の子”であった。

老若の観客で「平成中村座」の劇場を満員にしたり、野田秀樹さんを脚本・演出に迎えて歌舞伎座をわかせる。地道な古典芸能の守り手であり、現代をも意識した攻めの人であった。

<歌舞伎は98%が伝統で、97%になると歌舞伎ではなくなる>。市川団十郎さんが文芸春秋の対談で語っていたことがある。われわれが様々に模索しているのも、先祖たちがつくった98%の残り、2%の中なのです・・・と。

観客の高齢化も避けられない。人気の歌舞伎にもいずれ、試練が訪れないとも限らない。18代目中村勘三郎さんは若い人にもわかりやすい歌舞伎に注力されていたようである。98%を守ってよし、そして2%を攻めてよしのあの名演が懐かしい。