テレビの本質はハプニングなり
英文学者、文明批評家・マーシャル・マクルーハンさんのメディア理論によると、テレビはクールメディアだという。映画は、1枚の画を元に動画表現されるのに対し、テレビは細かい粒子のつながりで元の画を作る。
ホットメディアの映画に比べ、不安定さで成り立っているのがテレビである。
テレビは家の窓から外をのぞくように、身近に密着した風景や人物が似合うという。
容姿端麗な美女、美男は映画で映えるが、テレビでは隣近所にいるような人物がウケる。そして、覗いていると“何が起きるかわからない”部分の魅力も大きい。
「料亭に早く行ってみたい」、「国会議員の給料は2500万円」、「議員宿舎は3LDKで楽しみ」。10年前、自民党新人議員・杉村太蔵さん(当時26歳)の本音発言が話題になった。
衆院選に圧勝した直後の小泉チルドレンであった。
すぐに会見で、「国会議員としての自覚が足りないまま、幼稚で無責任な発言を繰り返しました」と神妙に謝罪したが、事あるごとにテレビカメラに追いかけられるようになっていった。
本来、怒りをかうのが当然なのだが、杉村さんはテレビというメディアにマッチして、あたたかみのある扱われ方だった。
国会欠席問題やセクシー自叙伝でにぎやかな上西小百合衆院議員(32)が、一昨日テレビに出ていた。番組独自の街頭インタビューで、300人中93%が上西議員を“嫌い”としたアンケートを受け、司会の上沼恵美子さんが「こんなに嫌われてるのに何でお辞めにならないの?私やったら辞めるわ」と切り出した。
そのことの反論を始めた上西さんは、パネラー出演の方たちもイライラさせることになる。
そして、「年収いくら?」と不意の質問には「2900万円ぐらい」と即答した。
対する上沼さんは「その税金、他の有能な方に譲った方がいいんじゃない?」。
上西さんいわく「私はやりたい事があってこの世界に入った」と主張する。
番組で集中砲火を受けてもケロッとしてる上西さん。
テレビ界では「叩かれるのをわかっていながら平然と番組に出演するずぶとさはすごい」と、バラエティー番組からのオファーも来ているという。
同じ議員でも、杉村さんのときとは正反対な受け止められ方がおもしろい。
一週間ちかく前に放送された音楽特番『MUSIC STATION ウルトラFES』でのハプニングもおもしろかった。その日はあいにく仕事で観られなかったが、録画をしていた。
ネットでの反響でそのシーンをあとで見たが、気に入ってしまい何度も観返している。
AKB48の指原莉乃さんが、メドレーの歌唱中にSMAPの木村拓哉さんを引っ張り込んで踊らせてしまったのだ。ちょうど『恋するフォーチュンクッキー』を歌い始めた直後である。この曲は各地の自治体や行政でも、さんざん踊られている有名曲ではあるが、あのキムタクがAKBのセンターで本番中に登場するとは驚きであった。
最初当惑していたが、他のメンバーを見て何度も首をひねって立ち上がり、センターで踊り出すと完璧なダンスを披露した。とにかく絵になってカッコいいのである。
曲中も何度か席に戻ろうとする木村さんだが、AKBメンバーたちが引き留める。
結局最後まで戸惑いとクールな表情を見せながらも、振りを完璧にマスターし踊りきってしまった。
AKB全員から「ありがとうございました」と礼を受けて席にもどった木村さんは、「こいうことってMステってやるんですか」と驚いていた。SMAPのメンバーたちのあっけにとられた表情がまた印象的である。
司会のタモリさんもビックリしたように「だんだん違和感がなくなってきた。リーダーっぽかったよ」とコメントしていた。
このハプニングにネット上では、「突然なのに振り付け完璧」、「センターで違和感なし」、「AKBの中で踊るキムタクも最高」、「AKB数人よりその中に一人入って画になるキムタクってすごいよね」・・・と盛り上がっていた。
メディアはメッセージ。クールメディアの活かし方というのが、まさにこういうことなのでは、という気がしている。