日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

データを支える紙とテープ達

 

かつて読んだ筒井康隆さんのショート作品『おれに関する噂』がおもしろくて忘れられない。

まったく無名のサラリーマンがある日、突然有名になり、マスコミに追いかけ回される。すべての情報が筒抜けになり、同僚の女子社員をデートに誘っただけでも、日本中の話題になるほど。

また、あるSF小説(題名と作者は忘れた)では、<朝起きたら自分に関する記録がまったくなくなり、この世にいない存在となっていた>という内容のものもあった。
自分の情報が知らないところでやりとりされるというモチーフは、読者の不安をかき立てるという格好な(小説の)題材となりうる。

人々がどんなモノを買いどんな場所へ行ったか、などという膨大な情報(ビッグデータ)を企業が利用しやすくなっている現在では、更に現実味が増してくる。

 

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紙データのデジタル化も、電子書籍などの出現で移り変わりつつある。
雑誌の販売減少がすすむ中、デジタル版付録で販売促進をめざす出版社や書店の動きが、目立つという。紙の雑誌を買うとデジタル版付録がもらえるサービスなどで、ウェブとの垣根を低くする取り組みを行い雑誌の復権につなげる試みだという。

いくつかの女性誌では、購入者がウェブを通じてデジタル版をダウンロード、という形で無料提供をしている。広告満載で重く分厚い女性誌が、外出先でも手軽に読め、記事への接触機会も増えるそうだ。

出版社側からは、記事ごとの閲読率や閲読時間などを、把握できる利点があるという。
また、紙の雑誌の購入者に、無料デジタル版を特典としてつけるケースでは、その実施店舗で、売り上げが10%以上伸びたところもあるようだ。

 

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紙とデジタルの融合とは別に、データ向けとしての磁気テープが再び脚光をあびているそうだ。CDやDVDの流通で、家庭でほとんど見かけなくなったカセットテープやビデオテープ。

それと同じ仕組みの“磁気テープ”が、世界のデータセンターで引っ張りだこなのだという。読み込み時間はかかるが、安くて省エネ性能が高く、寿命も長い点が見直され、膨大な情報が飛び交うこの社会を下支えしている。

富士フイルムホールディングスは、データセンターなどで使う産業用磁気テープで世界首位と好調だ。「データ保存分野で一層の売り上げ拡大を目指していく」と力を入れている。

 

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磁気テープの利点をあげると、データを出し入れするとき以外は、ラックに置ける。
常に電源をつないでいるHDDに比べても電気代がかからず、設置費や電気代などを含めた情報保存の総費用が(HDDの)約26分の1なのだという

寿命に関して、HDDはモーターなどが消耗するため3~5年だが、磁気テープはその約10倍の30年とされる。

産業用の磁気テープをいま生産するのは世界で富士、ソニー日立マクセルの3社だけと、日本で生産を独占している。一部の工程を除いてほぼ日本製だということなのだ。

3社が残ったのは、高い品質を要求される放送局用のテープで、高いシェアを持っていた影響がある。家庭用が売れなくなり、海外メーカーが撤退するなか、地道に研究や改良を進めることができたのである。

<磁気テープは日本の技術や素材の塊。製造装置も独自で、新規参入は難しい>とメーカー各社は自信をみせる。

 

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家庭向けに関してはクラウドを使ったサービスが増え、記録媒体を交換して音楽や映像を楽しむ機器がほぼなくなっている。そのため、産業用の技術を使った磁気テープを
家庭用に展開することはないらしい。

デジタル音源の音の良さや頭出しの速さなどでCD他に負け、家庭用の磁気テープの市場が徐々に縮小した。産業用でも、2012年の世界のデータセンターの記憶容量では上回っているが、急伸するハードディスク(HDD)の勢いに押され、一時、シェアが下がっていた。

データセンターで使われるのは、ビデオテープのVHSよりやや小ぶりのカセット型などである。世界のデータセンターで使われている磁気テープの記憶容量は、2012年の327兆メガバイトから2017年には2倍超に増えるという。

そして、磁気テープ見直しのきっかけの一つは、富士が11年に発売した新しいテープである。データの記録に使う金属微粒子を、より磁力が強く微細な素材に刷新。

記録量を当時の市販品の約3倍に一気に引き上げたというのだ。今年4月には、カセット1巻にDVD約5万枚分を記録できる世界一容量が大きい磁気テープもIBMと共同開発した。

同じ長さのテープで多くの情報を記録できれば、お金をかけてデータセンターを広げなくて済むし、省エネ性も大きな武器になるということである。