日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

ラジオとはホットなメディア

 

『壊れかけのRADIO』は徳永英明さんの楽曲で、忌野清志郎さんは『トランジスタ・ラジオ』を歌っていた。もしも、タイトルや歌詞で“ラジオ”の部分が“テレビ”に置換えられていたら、楽曲のイメージがガラッと変わってしまうことであろう。

物想いに耽るには音楽が最適である。こころが枯れてぱちぱちショートしているようなときにもうってつけ。それも、ラジオから自然に流れてくる音楽がいい。

日本初のラジオ放送は、1925年(大正14年)だというから、今から90年前になる。
テレビの日本初放送が1953年(昭和28年)なので、ラジオがテレビより28年ほど(放送メディアの)先輩になる。同じ放送でも、ラジオとテレビでは性質のちがいが大きい。

<人生とは時代を目撃すること>と言ったのは秋元康さんであるが、メディアとTPOの境界を抜きにしても、目撃ならぬ(ラジオからの)聴撃は多い。それもリアルタイムで。

 

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“深夜放送ブーム”を意識しないで聴いてはいた。たまたま朝までラジオを聴ける状況にあった、ということだけである。かつて若者文化の発信点で、「解放区」と呼ばれた深夜ラジオ。その姿は変容しても、新たな役割で今も放送を続けている。

喧騒から離れた深夜の部屋で、愉悦を感じながらも時として襲う孤独感。とても懐かしい心境である。ラジオから聴こえる“音”は心を落ち着かせ、別の世界へ誘う。
ラジオで聴く著名人の生の声。息遣いさえも感じられるすばらしいメディアである。

SNSやブログでは、有名人が限りなくふつうの人に感じてしまう。ラジオに比べて夢が削がれる気がする。ホットメディアとクールメディアのちがいということなのだろうか。

 

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1967年10月に、大阪で「ヤングタウン」(毎日放送)、東京は「オールナイトニッポン」(ANN、ニッポン放送)が産声をあげた。「誰も聴いていない」とされていた深夜帯の番組である。折しも受験競争が激化し、若い世代が深夜に眠らなくなりつつあった。

当時、ニッポン放送の社員でDJも務めた亀渕昭信さんは、ザ・フォーク・クルセダーズの『帰って来たヨッパライ』を何回も放送した。その“不真面目なナンセンスソング”は若い人たちにぴったりだったという。

深夜ラジオは若者という鉱脈を掘り当て、その波は、地方にも波及。そして、タレントらを起用するようになる。1974年スタートの笑福亭鶴光さんを筆頭にタモリさん、ビートたけしさんらの才能がラジオで異彩を放つ。また、当時売出し中のシンガー・ソングライターや話題のアーティストも続々登場した。

 

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吉田拓郎さんが突然の離婚宣言。番組ゲストの石野真子さんを熱く口説く長渕剛さん。番組冒頭でスタッフと衝突し灰皿を投げつけて帰り、番組に丸々穴をあけたショーケン

岡林信康さん、泉谷しげるさん、宇崎竜童さんのトークとギター弾き語りのセッション。タモさん、チーさまと呼び合う仲の良いタモリさんと松山千春さんの絡み。
聴撃はまだまだたくさんある。なにが起こるかわからない深夜生放送のリアル感はとてもおもしろかった。

沢田研二さんが昼のラジオ番組を持っていた時期、ジョン・レノンが亡くなった。そのときの沢田さんのコメントが忘れられない。

5年間の主夫生活を終え復帰するジョン・レノンであった。
アルバム『ダブル・ファンタジー』発売から間もなく射殺されたことで、記念すべき作品が遺作になってしまった。享年40歳。

沢田さんは、アルバム収録曲の『スターティング・オーヴァー』の皮肉な件名をあげて悔しさをにじませた。<もしジョンが復帰前もアーティストとして充実な時間を過ごしていたら、こんなことにはならなかったかもしれない>と、はき出すように語った。
その怒りと悲しみはラジオという媒体を通じて、ストレートに伝わってきた。

 

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80年代、テレビの深夜放送や娯楽の多様化で、最盛期を支えた“大物”らのラジオ番組は続々終了した
それでも、1990年4月にNHKが不定期で始めた「ラジオ深夜便」は大人向けで、ゆっくりした話し方など<民放とは逆のコンセプト>で人気が出た。

聴取者の中心は<“深夜放送ブーム”時代の若者>世代なのかもしれない。
全時間を通して95万~120万人の高年齢層が聴くという。今、深夜ラジオは“高齢者という鉱脈”を掘り当てたようだ。

2010年にはパソコンなどでラジオを聴ける「ラジコ」がスタートしたことも大きい。建物の問題もあり、私の自宅はラジオの電波が入りにくく、ラジオがあっても聴ける状態ではなかった。それが、インターネットのおかげでノイズを気にせず聴けるようになった。

パソコンのみならず、スマホタブレットなど様々なデバイスの普及で、いつでもどこでも聴けるのである。ラジオの良いところは昔と変わらない。別の作業をしながら楽しむことができ、リスナーの頭の中でいくつもの夢空間を、膨らませられるということなのである。