日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

此の際と知らずに漏れる情報

 

今もふつうに使われる「此(こ)の際」という言葉は、(水上瀧太郎さん著『遺産』によると)大正12年の関東大震災の直後に流行ったものだという。
「何しろ此の際の事ですから……」という具合に、特別な状況だから、みんなで足並みそろえて行動しようという空気が醸し出された。

「此の際、頑張ろう」とひとりひとり踏ん張る。非常時での「此の際」は周りに同調行動を強いる。小説『遺産』は、「此の際」という大震災後の世間の空気に圧迫された一人の男が、社会から孤立していくまでを描いている。

今の「此の際」は明るい用法が多く、「此の際、朝まで飲み明かそう」と盛り上げたり、ちょっとした居直りや“どさくさ紛れのついで”などにも使われる。

 

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スマートテレビなる呼び名を最近知った。スマートフォンからの流れかどうか知らぬが、この命名には<どさくさ紛れのついでの「此の際」>を感じてならない。
スマートテレビを調べると、<ネット接続を通じてアプリやSNSなどが利用できるテレビ>なのだという。わが家のテレビ2台もネット接続をしている。しかし、あれがスマートテレビというかどうかはわからない。

インターネットとつながるスマートテレビで観た番組履歴を、テレビメーカーが収集する動きが広がっている。2011年のアナログ放送終了に伴うテレビ買い替えで広まり、ネットにつながるテレビの国内累計出荷台数は、昨年までの4年間で2022万台。各社は2012年以降、オススメ番組の表示機能を競って採り入れ、そのために参考とするのが視聴履歴だとうたってきた。

ところがそこへ<「此の際」だから>という打算が介入しているようだ。
東芝はTポイントの運営会社に視聴履歴を提供し、会員向けの広告選びに利用することも認めている。シャープは「データ検証のため」だとして、広告会社に端末ごとの履歴を提供。
パナソニックも将来に備え、広告に活用する可能性を規約に盛っている。

 

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視聴履歴は、テレビでネットサービスを利用すると自動的に収集される仕組みで、視聴者が拒否しようとしても、そのやり方がとても分かりにくいとのことだ。

国内の主要テレビメーカーでは、東芝LSに加え、シャープ、ソニーパナソニックが視聴履歴を取得している。東芝LSの視聴履歴の収集対象は約10万世帯で、他のテレビメーカー3社と合わせると膨大な視聴履歴が収集されている。

一方、現行の視聴率の調査対象数は全国で6600世帯だけだ。
以前のエントリ『継続されている不透明 - 日日平安part2』でも書かせていただいたが、昔ながらの視聴率調査に関しては、不透明で不可解な部分がとても多い。

<個人データの詳細さ>ということでも、調査対象数の差以上にスマートテレビに分があると思える。今後、スマートテレビの“視聴履歴データ”が視聴率に取って代わる可能性は大きいはずだ。

 

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東芝LSは昨年秋から、買い物をするとポイントがたまるサービス「Tポイント」の宣伝をスマートテレビで流し始めた。同社は、Tポイント運営関連会社に視聴履歴を無料で提供し、見た番組に応じて視聴者がポイントを得られる仕組みだった。

ところが、コマーシャル時間でもないのに、画面右下に連日Tポイントの宣伝が表示されたことで苦情が殺到したという。そのため、Tポイントの宣伝を画面から消す方法を同社サイトで示し、「消し方の説明が不足していた」と陳謝した。

ネットにつないだスマートテレビが、観たり録画したりした番組の履歴を集めるのが、今や業界では常識だという。昨年に国内出荷されたテレビ549万台のうち246万台がスマートテレビ。そのほとんどが視聴履歴を収集できるが、知らないままで履歴を提供している視聴者は多いとみられる。

 

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テレビ視聴者の中心はお年寄りだという。ネットになじみが薄く、視聴履歴収集の仕組みを理解していない人も多い。メーカーが履歴を収集する場合、画面の中央に大きく表示するなどとわかりやすく説明し、同意を得る努力が必要であるはず。

パソコンやスマホでは、検索履歴から分析した利用者の関心事にあわせて、広告を打つことが知られている。そのことでさえ、私はいまだに理解できていない。たとえば、ネットで興味のある商品を検索していただけで、その後のネット使用の広告に同様の商品がいくつも表示されている。いったいどこで見られているのか、いつもふしぎに思うのだ。

まして、テレビでそれと同様なことが起こるなんて、理解も納得もできない。
テレビが視聴履歴を集めていることを知らない人もまだまだ多いだろう。まして、一般的に予想できない内容は目立つように示すべきであろう。

個人情報保護法などと大げさに騒がれている反面、肝心なところからの大漏れが見逃されている。テレビをうっかり観ていただけで、大事な情報が勝手に流されるなどと、考えただけでも呆れ返る。