日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

堅実な中にも新語とパロディ

 

黒澤明監督の『生きる』で、乳飲み子や幼児を連れた母親たちが、空き地に公園を作ってほしいと何度も役所へ足を運ぶ。しかし、住民たちの陳情は市役所や市議会の中でたらい回しにされる。

映画やドラマで、時間経過を表現する技法として使われるワイプやフェードアウト。それらを巧みに使ったこのシーンが忘れられない。

「トイレ貸してください」
「じゃ、書類にハンコを」
「がまんできないんだ」
「一応、規則でして――さあ、お使いください」

「あ、あなた大ですか、小ですか」
「大です」
「だったら書類が違います」

かつて、萩本欽一さんと坂上二郎さんの“コント55号”が演じたコントである。
融通の利かないお役所仕事の風刺として大笑いした。
実際そんなことはないが、役所というとどうしてもお堅い仕事というイメージが強くなる。

 

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役所同様、お堅い職業イメージの銀行。
そこで扱う「代理人◯◯手形」のことを、略して「代手(だいて)」と言うらしい。

若い女性行員が男性行員に言うそうな。「ダイテください」。
真偽のほどはわからぬとのこと。(俳人楠本憲吉さん著『日本語の愉(たの)しみ』より)
職場など狭い世界で使われる略語は昔からあるようだ。

たまに見る「イケダン」という言葉。なんのことやらさっぱりわからなかった。
若者言葉辞典で調べると、“イケてる旦那”という意味だという。

イケダンの条件として<ファッションに気を遣う、仕事ができて家族も大事にする、家事を手伝ってくれる>などらしい。
「イケダン」が増えれば女性も働きやすく、社会が活気づくことであろう。

私のまわりでは(私も含めて)「イケダン」ならぬ「イカダン」(イカれた旦那)ばかりである。
略語や新語に限らず、年配者は今後も多少の戸惑いを覚悟する必要があるようだ。

<素足(なまあし)と若きら怖きことを言ふなまくびにくさり光らせながら>
(歌人・山本かね子さん)。ナマアシも「ダイテください」と同じくドキドキものである。

 

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新田次郎さんは、小説家であり気象学者でもあった。気象庁の測器課長という経歴もある。その新田さんの作品に『毛髪湿度計』という短編小説がある。

湿度計は大気中の水分により伸縮する毛髪で、針を動かす仕組みになっている。
最適なのは細く縮れのない「白人女性の金髪」とされるが、研究者の男は“大和なでしこ”にこだわり続ける。
そして、1度もドライヤーをかけたことのない女性を探したりと、“変態”に見えるほどである。その執着の度合いは奇妙に見えても、開発に携わる人々の一面なのであろう。

プロ野球で使われている統一球も、毛と水分の影響を受けることが多いという。
最近はあまり問題にされていないようであるが、飛びやすくなった要因にボール内部のゴム芯を巻くウール糸が関与しているという。水分の率が規定を下回って反発しやすい状態になっていたとか。こちらの製造工場には、上述のような執着心の強い方がいらっしゃらなかったのかもしれない。

 

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バブル時代、私はすでに社会人として毎晩飲み歩いていたが、学生たちの間では2C2Sという言葉が流通していたとか。カー(車)、サークル、スキー、サーフィンの頭文字なのだという。

神奈川・湘南の海では、そのうち一つのSを今も続けている人たちがいる。
週末の浜辺は“おじさん”も多く、つい見入ってしまう。

今の若者は堅実な「悟り世代」と言われる。波乗りには口が合わないのか、世代交代の“波”はまだ来そうもないとか。バブル崩壊と空白の20余年。凪(な)いだ海の記憶のない人もあろう。

 

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ことわざや格言のパロディは名作が多くて楽しい。

<人間万事才能が邪魔>(人間万事塞翁“さいおうが”馬)。
<敵は本能にあり>(敵は本能寺にあり)。
人の世の機微をとらえてなかなか味わい深い。

<妻を憎んで人妻を憎まず>(罪を憎んで人を憎まず)。
こちらは、あまり大きな声では言いにくいが。

<一寸の無心にも五分の騙(だま)し>(一寸の虫にも五分の魂)。
そういえば相変わらず、大量の騙しメールがわがPCにも届く。
長いお付き合いのメアドを変えることもできず、一刀両断で削除はしているのであるが、なかなか面倒である。