日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

神様を越えたカリスマ

 

カリスマ性とは、人の心を引きつける強い魅力があることや、多くの人から支持されることとか。私なりに付け加えると、型破りでお茶目な部分もそこに含まれるように思う。カリスマ性を感じるということは、人の好みによる要素が大きいので、人それぞれでバラバラなのは当然である。

 最近、ポール・マッカートニーが来日して、日本公演で盛り上がっていたようだ。

ビートルズというバンドのカリスマ性もいまだに衰えていない。メンバー別でいくと、やはりジョン・レノンのカリスマ性を支持する人たちが多いのであろうか。

ビートルズ解散後、ポールとジョンの活動をみると、ジョンは話題性が豊富で、カリスマ性をますます深めていったように思う。私の予想に反して、ポールの活動はおとなしく静かに感じた。

考えてみると、ジョージ・ハリスンリンゴ・スターもかなりの変わり者かもしれない。ポールだけは常に常識人とのイメージがある。ジョージがシタールという楽器がらみで、他のメンバーを引き連れてインドに長期滞在したとき、みんなで髭を伸ばしていた。その中でポールだけがサマにならなかったのをよく憶えている。

 プロ野球ではONの人気がすごかった。記録の王と記憶の長嶋。このフレーズも有名である。王選手のカリスマ性だってすごいはずである。それなのに、もっと上回るカリスマ性の持ち主が長嶋選手である。忘れもしない、長嶋さんの引退セレモニーのとき。私は渋滞の車の中で、ラジオから聴いていた。もう、あの勇姿が見られなくなるのかと思うと、涙が一気にあふれた。そして、対向車を見たらどのドライバーもみんな泣いていた。

 

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また、かつて私がカリスマ性を強く感じたアーティストがいる。岡林信康さんである。昔、フォークゲリラなどというのがあって、多くの学生や若者たちが反戦集会を行い、駅前などで反戦的なフォークソングなどを歌った。そのときの定番曲が岡林さんの『友よ』である。私はまだ参加する年齢でもなかったが、よく見学していた。今でもふしぎなのであるが、あんなにたくさんのギターがあるのに、どうやってチューニングしたのだろう。

 岡林信康さんは、同志社大学神学部のときにはボクシングをやっていた。実家は教会で牧師を目指していたところ、社会の不合理にめざめ、社会主義運動に身を投じる。こういう運動と創作される反戦歌が受けて「フォークの神様」とまで呼ばれた。

この当時、私はとくに興味がなかったのであるが、東京の山谷に住みついて『山谷ブルース』を歌っているのは知っていた。そして、(ギターを持って)歌っている岡林さんの写真を見て、イエス・キリストのように感じていた。

 岡林さんから影響を受けたアーティストに、泉谷しげるさん、松山千春さん、山下達郎さん等がいる。泉谷さんと松山さんは、深夜のラジオで(ご本人たちから)聴いて知っていたが、山下達郎さんは意外である。このエントリのためにネット検索をして初めて知った。

 

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私が岡林さんを本格的に聴き始めたのは、フォークゲリラや学生運動が下火になっただいぶ後のことである。全曲を何度も聴いて、ギターを持ってよく歌った。

ちょうどこの頃、岡林さんは活動をしていなかった。京都府綾部市の総戸数17戸の過疎村に居を移し農耕生活をしていたのである。

そして、4年間の農耕生活を経たある日、演歌路線の新アルバム『うつし絵』をひっさげて復活コンサートを中野サンプラザで行うことになった。

 コンサート当日の開演前、私は中野サンプラザの喫茶室で友人とコーヒーを飲みながら話をしていた。そして、話の途中で友人が教えてくれた。私の背中越しの席に岡林さんともう一人の方が座っていた。さりげなく振り返ってみると、岡林さんはビールを飲みながら頭を抱えていた。

4年ぶりのコンサートを前に、かなり緊張しているようだった。そして、岡林さんとご一緒の方は(あとでわかったのであるが)ギターの達人、木村好夫さんであった。ジャズギター界の出身で、演歌や歌謡曲に転向された方である。テレビにもよく出ていて、石原裕次郎さんのバックでギター一本の伴奏をしたり、作曲でのヒット作もある。すばらしいギターの音色で、私も大好きなギタリストである。今は、惜しくも62歳で他界されている。

 

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「どうしよう・・」と頭を抱え込んだままの岡林さんに、

「ぼくだってエレキが初めてで、心配でたまらないよ」と、木村さん。

いつもアコースティックばかりだったのを、このコンサートで初めてエレキを弾くらしい。あれほどの名人でも緊張するんだ、ということを改めて知った。

 ステージの幕が上がる少し前、私たちの席の少し前の一角で、年配の女性たちがまとまって座っていた。着物姿の方もいるようだ。岡林さんのコンサートは初めてなので、こういう客層なのだろうか? と少し気になった。

客席には音楽関係の方もいて、宇崎竜童さんと阿木燿子さんのご夫婦は確認できた。他にもアーティストの方たちはいたが、だれだったか思い出せない。

 緊張しながら始まったコンサートも、岡林さんはいい調子で進行して、懐かしい曲もやってくれた。なんといっても、私は全曲聴き馴染んでいるので、なにを歌ってくれても楽しめる。途中のMCで、新アルバムの話も。アルバム内の2曲は美空ひばりさんもシングルカットしているとのこと。もちろん私も知っていた。そして、ひばりさんとの馴れ初めや、ジョークで軽い悪口も。

すると突然、客席から本家本元の美空ひばりさんが立ち上がりステージへ向かう。

まさか、ひばりさんがいるとは思わなかった。それも客席にである。そして、客席にいる年配の女性軍団はひばりさんのファンたちであったのだ。

 

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ひばりさんは、岡林さんとのトークのあと、(岡林さんの作った)新曲を熱唱してくれた。その迫力とカリスマ性に圧倒された。さすがとしか言いようがなかった。

 それから後日、そのコンサートの模様を(ラジオ中継で)聴いた。

美空ひばりさんのあのときの歌を聴いていたら、一ヶ所だけ音をはずしていたのである。私は、そのことにおどろいた。ひばりさんの生歌で聴いていたときには、すべてが完璧でしかなかったのだから。

 

あの日のコンサートから、長い年月が流れた。先週のテレビ朝日「報道ステーション」に、岡林信康さんが出演されていた。今月の半ばには東京・日比谷公会堂で久しぶりのコンサートを開催するらしい。残念ながら、私は行く予定がないけれど、また岡林さんのステージで、なんらかのドラマが待っているかもしれない。