地方巡業のユーミン
ユーミンのコンサートに行かれた方は多くいらっしゃると思う。私の知人女性も、大掛かりなコンサートを含め、数えきれぬほど行っている。私はといえば、一度もない。iPodにユーミンのアルバムは一枚入っている程度で、とくに自分から聴こうとしてはいない。ただ、たった一度だけ、すぐ目の前でユーミンの生歌を聴いたことがある。
ユーミンがデビューしたての頃で、場所は横浜の駅ビル。休憩広場のようなところであった。かまやつひろしさんがMCを務めるラジオの公開番組が行われていた。偶然に通りかかって、席もかなり空いていたので、前の方に座った。
そのときのゲストがユーミンであったが、知名度は低かったようである。番組前に仮設ステージの脇で、かまやつさんとユーミンが談笑していた。このおふたりは顔見知りなのである。というのもユーミンはGS(ガソリンスタンドではなく、グループサウンズ)のスパイダースの追っかけをしていた。そして、かまやつさんはそこのメンバーであったからだ。ユーミンのデビューのきっかけも、かまやつさんの力添えがあったとか。
ユーミンのデビューと同時期に、五輪真弓さんがデビューしていた。おふたりとも、ピアノの弾き語りの女性シンガーソングライターである。五輪さんは『少女』という曲が評判になり、私もよく聴いていた。荒井由実さんは、名前だけは知っていた。伝説の音楽専門誌『新譜ジャーナル』の類(たぐい)をよく読んでいたからである。
ユーミンのステージが始まった。 やりにくそうに演奏しているのを感じた。目と鼻の先で演奏しているのだから、とてもよくわかる。ピアノの調律もしきりに気にしていた。バックにエレキギターとベースの男の子たちがいたが、アマチュアのアルバイトでは?と思えるような演奏であった。彼らはコーラスの部分を入り損ねて、照れ笑いを浮かべていた。そして、ユーミンのやりにくさは助長していくようであった。
この日の楽曲では、(映画主題歌になり)今もよく流れる『ひこうき雲』があった。ユーミンの曲紹介でタイトルは憶えているが、曲自体の印象は残っていない。印象深かったのは『ベルベット・イースター』という曲の方である。全体的に、それぞれの曲はいいけど重い感じを受けた。そして、曲の間にポツリと語ったユーミンの言葉が忘れられない。
「今、地方をまわって演奏しているのですが、おじさんたちに『おねえちゃん、演歌を歌ってくれ! 』と、よく言われるのがつらい。」とのこと。
その後のユーミンは、ご存知のとおりの大躍進であるが、売れてからのユーミンの曲を聴いておどろいた。あのときのイメージとはちがい、軽快なアップテンポに変わっていた。ご主人の松任谷正隆さんのアレンジで、曲の趣がガラリと変わっていたのである。