30余年先の食物予想図では
立ち食いステーキや熟成牛肉店の流行で、当たり前に食されている牛肉だが、日本人が抵抗なく牛肉を食べるようになったのは明治に入ってからだという。
その象徴となったのが牛鍋。1868年(明治元年)創業の牛鍋店「太田なわのれん」(横浜市中区)は、今も続いて営業している。伊勢佐木町の近くで、私も行ったことがある。
鉄製の浅い鍋にぶつ切りの肉が並べられ、たっぷりみそがかけられる。炭火で温め、赤い肉が徐々に茶色へかわり、口の中でうま味があふれる。
かつて、庶民は仏教の殺生戒などから、おおっぴらに肉を食べることはできなかった。特に牛肉への抵抗は強かったそうだ。江戸後期に禁忌意識の薄れや、訪日外国人との接触もあり肉食の機会が増える。
鹿やイノシシなどの獣肉は江戸でも獣肉店で食べられ、庶民や下級武士たちでにぎわった。15代将軍・徳川慶喜は豚肉を好んだとのこと。
明治以降、牛肉を食べるようになったのは、国策による影響も大きいらしい。政府は日本人の体格を向上させるため、肉食を奨励した。庶民にとって牛食は新しかったが、みそで煮る牛鍋の手法はイノシシ鍋の食べ方と同じ。
豊かになるにつれ人々は、肉や魚などのタンパク質をより多く求める。アジアにおける牛肉の消費量も、今後10年で44%拡大するという。しかし、食用家畜の飼育は地球環境に甚大な影響を及ぼしている。
家畜の数は20世紀に激増し、ニワトリは200億羽、牛は15億頭、羊は10億頭にのぼる。世界の土地の20%を家畜のために使い、人間の活動から生じる温暖化ガスの14.5%は家畜によるものだという。
淡水の消費量もものすごい。小麦、トウモロコシを1キログラム生産するのに必要な水は1500リットルだが、牛肉1キログラムを生産するには1万5000リットルもの水が必要になってくる。
世界の人口は、現在の76億人から2050年には98億人になる予想だ。人口が増えれば食糧需要も増える。2009年の食糧生産高に比べ、2050年には世界全体で70%増の食糧生産が必要になるとのこと。
食糧を確保するには、人間が今よりも昆虫を食べ、人工肉を食べ始めることしか食糧難や水不足を補えないという。フランス南西部にある昆虫養殖会社では、人間が食べるためのコオロギを生産している。
人類はタンパク質を摂取するために、昆虫類を積極的に食べること以外に餓死から逃れる術はない・・・のだと。昆虫は最大で牛肉の約3倍のタンパク質を含み、20億人近い人間が必要とする食料の補助的な要素になっている。
昆虫を家畜の飼料にするという選択肢もあるらしい。有機肥料で穀物を栽培する代わりに、ハエやウジを育てて牛、ニワトリ、養殖魚に食べさせるそうだ。
それほど遠くない未来の正月には、昆虫を食材にした“おせち料理”が、食卓に並んでいるかもしれない。