心温まる料理に街並み懐かし
北から南に向かって吹く風を“北風”と呼び、南から北へ流れる潮のことを“北流”というらしい。方向を示す言葉はややこしい。
松任谷由実さんの名曲のひとつに『冷たい雨』という曲がある。“冷たい雨”は、公式の気象用語なのだという。
熱帯で気温の高い地域では、雲粒が水滴のままストレートに落ちる。しかし、温帯では上空の気温が低いため、氷の状態で雲が浮かび、降下しながら解けて雨粒に変わる。
専門家によると、前者が「暖かい雨」といい、後の方を「冷たい雨」と呼び分けるそうだ。たしかに、少し前まで氷だった雨だから冷たいはずである。
炊飯器で炊いたご飯の、ひときわおいしい部分は表面だとか。表面をすくい取って口にすれば、甘みがとても深い。うまい米は上へ上へと集まる。しゃもじで混ぜるのは、“おいしさを均等にする”ため。
人間の社会でも、おいしい部分は上に集中しているのだろうか。しゃもじで混ぜる役目といえば、“上から目線”の政治家たちか。自分たちがおいしいモノを抱え込んで離さない。昔の政治家に比べて、人情が枯渇しているように感じてならない。
だからなのか、良質な人情ストーリーのドラマや映画に出会うと、どっぷりとハマってしまう。たとえば、『深夜食堂』という作品。私にとってかけがえのない名作である。
“昭和”を思い起こさせる心温まる料理と懐かしい街並み。その店は繁華街の路地裏でひっそりと営業。
「できるもんなら何でも作るよ」
小林薫さん演じるマスターの決めゼリフである。深夜食堂は大都会・新宿の街から一歩外れて、迷い込んだような路地裏にある“ファンタジーな世界”なのである。2009年にドラマの最初のシリーズが放送された。
『深夜食堂』のオープニングテーマ曲は、鈴木常吉さんの『思ひで』というすばらしい楽曲と歌声である。夕暮れの都会の街並みに癒やしを与えてくれるような落ち着きがある。
ずっと知らずにいたが、この歌の原曲は『Pretty Maid Milking Her Cow』というアイルランド民謡であった。
静かで物悲しい歌が流れ、小林薫さんのナレーションが重なる。
<一日が終わり、人々が家路へと急ぐ頃、オレの一日が始まる。営業時間は夜12時から朝7時頃まで。人は深夜食堂って言ってるよ。客が来るかって? それがけっこう来るんだよ>。
気のいいマスターがいる店「めしや」は、実在しているような錯覚をしてしまう。その味と居心地の良さ。ワケありの客が訪れては、いくつもの人生模様が繰り広げられる。ドラマ展開になんの誇張もない。
“深夜食堂ワールド”は映画でも大ヒット。その人気は国内のみならず、アジア各国でもフィーバーした。台湾は2015年上半期公開の邦画の中で1番の興収をあげ、韓国でも2000年以降の同規模公開作品の中で歴代1位を記録。
私は、映画もドラマもすべて観尽くしてしまったと思っていたが、配信のNetflix(ネットフリックス)制作分があるのを知り、今 夢中で観ている。この配信はさんざん観ていたが、まさに嬉しい“灯台もと暗し”であった。