無駄が粋でも若者言葉は省略
毒蝮三太夫さんは、永六輔さんがラジオの魅力を教えてくれた大恩人、と敬う。
1933年(昭和8年)東京生まれの永さんは、タレントや放送作家として活躍する一方、『上を向いて歩こう』などのヒット曲の作詞や、60年代後半からラジオで主に活動した。
音だけのラジオは不自由なようで自由なのだという。現場とスタジオの掛け合いも、隣同士で話すような親近感が特徴である。
永さんが番組出演のときは、毒蝮さんが「関東一直線」などの企画をやった。
東京都立川市をスタートして、(毒蝮さんは)道路や田畑をどこまでもまっすぐ歩くのだ。
重い無線機を背負いながら、4時間くらい歩いてスタジオの永さんの指示に従う。
ゴムボートをふくらませて川を渡り、田んぼも横断。服は泥だらけになった。
永さんは放送時間の終了間際に、「その近所でシャワーを浴びさせてもらいなさい」と言い出す。毒蝮さんはすかさず、窓から顔を出したおばさんに「シャワーか風呂をお借りしたいんですが」と頼み込む。
おどろくおばさんは、「何のためにやっているの」と問いかけた。
スタジオの永さんが応えた。「やる意味がないですよね。でもこれがラジオのいいところなんですよ。目的のないことをするのがいいのです」と。
役に立つ、得をするとか、だれもが理由や目的を考えて行動する。
それを永さんは否定するのである。
毒蝮さんは、<無駄こそ粋なんだ>と、永さんにたたき込まれたそうだ。
<意味がないものを受け入れてこそ人生に深みが出る>のだと。
今さらではないが、若者言葉の簡略化が進んでいるらしい。
「とりま」(とりあえず まあ)、「MJK」(マジか)、「あざお」(ありがとうございます)などというようだ。SNS内では、「ま」(まじ?)や「り」(了解)のように一文字の略語が使われるともいう。
会話も「それな!」や「ウケる」との単語がテンポよく飛び交う。
「卍」になると特定の使い方ではなく、“自分に気合を入れる”や“調子に乗っている”ときのタイミングで出てくるらしい。
“あいつ卍じゃね?”や“仲間との絆”にも使われるらしいので、とても感覚的な言葉のようだ。
そういえば、最近観たテレビのバラエテイ番組で、藤田ニコルさんと梅沢富美男さんが、「卍」を適当に入れながら会話をしていた。よくわからなかったが、楽しそうでうらやましかった。
(今も使われている)年季の入った若者言葉もあるという。「ウーロン茶」というワードで、意味は“ウザい茶髪でロン毛の男性”のことを指すらしい。
それにしても、若者言葉の傑作がどんどん現れてきそうである。
もしかして、<意味がないものを受け入れてこそ若さにも深みが出る>のかもしれない。