人を理解し共に成長する車?
「この頃は化け物どもがあまりに居なくなり過ぎた」と嘆いたのは、物理学者・寺田寅彦さんである。(『化け物の進化』より)。
妖怪でも鬼でも、不可思議な存在への憧憬や戦慄こそが、科学に対する少年の興味をふるい立たせたものだという。科学の目的とはむしろ「化け物を捜し出す事」なのだ・・・と。
昨年、トヨタ自動車は他のメーカーやアプリ開発会社に対し、共同開発への参加を呼びかけ、“つながるクルマ"を大幅拡大する意向を示した。顧客の運転状況などのビッグデータを収集し、製品開発や新サービスの提供に生かす。
“つながるクルマ"はカーナビなどの車載通信機を通して、トヨタのサーバーから道路状況の変化に応じた地図を更新したり、事故時には場所や状況を自動で通報もする。
2014年12月には世界初のセダン型燃料電池自動車MIRAI(ミライ)も発売された。
本格的な普及には(燃料補給の)水素ステーション拡大がカギを握る。現状で水素スタンドはまだまだ足りないという。
IoT(物のインターネット)ブームの昨今、家電も車もインターネットにつながるご時世のようだ。大量の情報が蓄積された複合機も、プリンターのセキュリティー対策が講じられなければ、インターネット上でかんたんに見えてしまう。
多数の機能が一体化した利便性の陰で、危機意識の希薄さが改めて浮き彫りにされる。
しかし、パソコンやスマホがインターネットにつながることは理解できても、物がネットにつながることは理解しにくい。その意識を持てる前から、“つながる新商品"に触れさせられるユーザーたちはたまったものではない。
この年明け早々にトヨタは、(米ラスベガスで開幕した)家電・技術見本市「CES(セス)」で、人工知能(AI)を搭載したコンセプトカー「コンセプト・アイ」を公開した。
AIはドライバーと、会話などのやりとりをするそうだ。緊張や疲れがあると判断すれば
ゆったりした音楽をかけたり、危険な運転状態になった場合は、自動運転に切り替わる。
ドライバーの好みも記憶して、それに合わせた走行ルートも提案してくれる。
トヨタは人の感情を読み取るAIを搭載したコンセプトカーを、<人を理解し、ともに成長するパートナー>と位置づけるそうだ。
AIが運転者の表情や声のトーン、動作、やり取りなどのデータを分析し、気持ちや好みを学習するからだ。そして、<運転すればするほど、人工知能が成長する>という。
野生のイメージの強いカラスは、人の言葉をまねることもあるらしい。
「トーちゃん、トーちゃん」、「オカア、オカア」などと。
都市の鳥を研究する唐沢孝一さんが、『カラスはどれほど賢いか』に書いている。
話をするのは、けがなどで人に保護されたカラスばかりとか。
言葉を発すると人が異常に反応することを見抜き、生き延びるため語彙を身につけるという。
どういうわけか私には、これらのカラスと人工知能が、ソックリに感じられてしかたがないのである。