日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

粋にもてなす日本人のお家芸

 

歳を重ねる度に知らないことが増えていく。

「少し刺し身を切りますか?」、「握りがいい。つけてくれ」。
すると職人はおもむろに鮨を握り始める。

作家・早川光さんのコラムにあった。
30数年前、早川さんが入った東京下町の鮨(すし)屋での会話である。

職人と常連客との会話で早川さんは悟った。
鮨屋では“握る”ことを“つける”というのか。

若き日の早川さんには、その言葉の響きが“粋”に感じられた。

“つける”という言葉は、江戸前鮨の原形である“なれずし”が魚と飯を桶に“漬けて”作ることに由来している。本来、鮨は握るものではなく、つけるものだったのだ。

<紙クズはもう一泊します>。
こちらは、ある月刊誌での帝国ホテルの広告だという。

チェックアウトの宿泊客が、部屋のごみ箱に大事なメモを捨ててしまった場合の対応で、一昼夜、ごみを別室で預かるという。客の身になった実に粋なサービスである。

  

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1970年、大阪万博に出展した企業は最初、万博を見本市程度に考えていたようだ。
その3年前のカナダの万博では、国産車が日本館に並び<宣伝臭が強い>とのひんしゅくを買ったらしい。

昨年のイタリア・ミラノ万博では、その昔がうそのように日本館が好評だった。
日本館のスタッフ談では、ふだんから1時間待ちの列ができ、目を引くパビリオンの来場者投票で1位になった。

万博を見て訪ねたくなった国の順位も、日本はトップだったそうだ。
テーマが“食”ということもあり、日本各地の名物が続々と館内でふるまわれた。
草加煎餅、山口県のフグ、松阪牛などである。

まるで物産展のようだが、現地紙は、日本館の魅力に手厚いもてなしを挙げたという。
相手を(自分より)大切にする精神は他国にまさる・・・ものだとも。

  

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日本をPRするという目的は同じでも、今は売ることだけを前面に出した時代とは違う。日本人は成熟したが、それを誇りに思いつつ、脇目もふらず突き進んだあの活力が懐かしくもある。

職人が鮨を握るカウンターの内側を“つけ場”と呼ぶのは、鮨を“つける”場所がそこだからである。しかし、若い鮨職人の多くはそれを知らないようだ。

流行りの鮨屋で<つけてくれ>と言っても、勘定のことだと誤解されるのがオチかもしれない。鮨屋のレストラン化が進み、コースのように提供する店も増えているが、そうしたところではカウンターの内側がつけ場ではなく厨房なのだろう。

漢字の本家といえば中国だが、和製の文字もある。それを国字という。
よく使う国字の中に<粋>があるそうだ。本家にも同じ意味をもつ別の字はあろうが、やはり日本の“粋”には心惹かれるなにかがあると思う。