日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

省かずスタンド・バイ・ミー

 

アメリカのソウル歌手ベン・E・キングさんは昨年、76歳で亡くなった。
1961年にはソロで、名曲『スタンド・バイ・ミー』の大ヒットを放った。

1986年、少年の友情を描いた同名映画の主題歌となり、リバイバルヒットしたといわれている。実情では、ただの主題歌のつもりでいた監督が、<スタンド・バイ・ミー(僕のそばにいて)♪>と繰り返すフレーズに惚れ込んで、映画のタイトルにしてしまったという。

原作はモダン・ホラーの大家スティーヴン・キングさんの短編小説集『恐怖の四季』の中に収められた『ザ・ボディ(死体)』であった。

<僕のそばにいて>。大切な家族や友人を失ったとき、日本人が言えそうでなかなか言えない言葉なのかもしれない。

 

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<わたしが初めて人間の死体を見たのは、やがて13歳になるという12歳のときだった。長い年月がたったとは思えないときもあるが・・・>。

<わたしはこの12歳のときの仲間たちのような友人は、その後ひとりももてなかった>。スティーブン・キングさんは自伝的小説にこう記した。

冒険の旅に出た少年たちを一瞬、稲光が照らす。<神がわたしの写真をお撮りになった…>と主人公がつぶやいた。『スタンド・バイ・ミー』の一節である。

ベン・E・キングさんは東日本大震災の次の年には、被災地へ歌いに来てくれた。
コンサートではなく、仮設店舗のジャズ喫茶で客と合唱したという。
「亡くなった方はあなたの心の中にいる」と声をかけてもらった人もいる。
また、『Sukiyaki(上を向いて歩こう)』を歌い、みんなにパワーを・・とも。

 

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話変わるが、三浦しをんさんは小説『舟を編む』で国語辞典の編集者を描いた。
主人公が<リアルに謎なんだけど>と言われれば、すかさず“リアルに”の語意や使い方を書き留めるシーンがある。

20年ほど前と思われるその時代では、“本当に”との意味で使う人がまれだったのだろうか。用例採集と呼ばれる地道な作業が、辞書作りの基礎となる。言葉を集めた後の苦労についても、せっせと集めた言葉を、紙幅の都合で省くつらさがにじむことであろう。

ネットでふと目にした“省く”の用例が頭を離れない。
<あしたあいつ、はぶいちゃおうぜ>。こんな使い方になるのだろうか。
“はぶる”や“はぶにする”との言い回しもあるらしい。
“仲間外れ”や“村八分”にするという意味だとか。

スタンド・バイ・ミー』も『上を向いて歩こう』も、ずっと歌い継ぎたい名作である。それらの言葉の、とどのつまりはなんといっても<スタンド・バイ・ミー>である。<そばにいて、そばにいて・・・>と。

ベン・E・キングさんは、心地よい音楽とともに悲しみ深い人の心へと、入り込むことのできた人なのだろう。