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日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

好き・器用・継続で織り成す蔭技

人間

 

好きであれ、器用であれ、そして続けること。

なにかを極めるとき、この3つは切っても切れない。リンクしているからだ。そして、それぞれに密度の違いがあり、3つのバランスがうまくとれているかどうかがポイントである。

飽きっぽい性格の私も、好きなことは継続できる。“好き”という密度の濃さが、苦手な“継続”を引っ張っているのであろう。好きなことに関しては、自然に工夫もするようになり、自ずと器用にこなせるようにもなれる。

鰻(うなぎ)職人の世界で<裂きは三年、蒸し八年、焼きは一生>と言う。まさに、「好き・器用・継続」が当てはまる。

日本は、ウナギ類全体の約7割を食べる世界最大の消費国だという。
厳しい修業で磨かれる職人技には、材料の仕込みに滞りがあってはならない。昨年、ニホンウナギの稚魚の国内漁獲量は数年ぶりに回復したが、長期的には減少傾向らしい。また、ニホンウナギ国際自然保護連合絶滅危惧種にも指定された。

 

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スポーツ競技など、極めた者どうし同じ実力なら、道具の差が勝敗にかかわるそうだ。“弘法筆を選ばず”の弘法大師ほど<筆を選んだ人はいない>と訊いたこともある。

剣豪・宮本武蔵も相手によって道具を替えた。佐々木小次郎との対決では、小次郎より長い木刀を用意した。舟の櫂(かい)を削って作ったものである。
小次郎の太刀が空を切り、武蔵の木刀は小次郎の頭を打ち据えた。その長さのちがいが勝敗を決した。小次郎の死因は頭部打撲によるものであった。

米大リーグのイチロー選手も道具へのこだわりが強い。自分に合うものをしっかりと把握しているからだ。イチロー選手のグラブはスポーツ用品メーカー・ミズノの波賀工場(兵庫県宍粟市波賀町)で作られているという。

2006年、“現代の名工”にも選ばれた先輩である坪田信義さんの後任として、入社31年目のグラブ職人の岸本耕作さんが、イチロー選手の担当を任された。
マイスターという社内最上位の技能資格を持つ岸本さんであるが、イチロー選手に使ってもらえるまでの努力はたいへんなものだった。まさに、<好きであり器用であり続ける>ことが必要とされた。

 

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岸本さんはその年の夏、自分のグラブを初めて見せるため渡米した、新調のアルミ製キャリーケースふたつに3個ずつ入れ、大切に運んだ。順番に左手へはめたイチロー選手は、無言のまま首をかしげた。そして<ストレスを感じます>との一言。岸本さんは6個すべてを持ち帰った。

2007年のオールスター戦で使ってもらえるようになるまで、持参してはほとんど不合格の繰り返しであった。25個を作り、寸法や重さが合っていても、受け取ってさえもらえなかったそうだ。

イチロー選手用は、軽さと操作性を追求するため、革の薄いプロ用からさらに薄くする必要があった。グラブは天然素材を約40工程の手作業で仕上げていく。牛革の裁断や縫製などでも、同じものができるはずもない。

あるとき岸本さんは、<名手の繊細な感性より大先輩の作品を追っていた>ことに気づいた。<坪田さんのグラブをまねようとしていた>ことが問題点であったのだ。

 

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野球の用具はグラブだけでは成り立たぬ。選手にとってバットは身体の一部であると同時に、いとしいわが子なのだとも。そして、選手が育ての親ならば、バット職人は生みの親とまでいわれる。

1965年からプロ野球のバット製造に関わった久保田五十一(いそかず)さんが、昨年に引退をした。ミズノ子会社ミズノテクニクスの嘱託社員でプロバットマイスター。伝説的なバット職人なのである。

イチロー選手、落合博満さん、松井秀喜さんらのバットを製造し、陰で支えたバット作りの名人で、半世紀に削ったバットは数十万本だという。イチロー選手の日米通算4000本安打や松井さんのワールドシリーズMVPも、久保田さんの“わが子"を“わが腕"に育て上げ成し遂げられた偉業といえる。

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バットの良し悪しは材料の良さが95%を占めるとの理論で、アオダモやメイプルの買い付けは自分の目で確かめて調達していた。

年間に100本近いバットをオーダーしていた落合博満さんの逸話がなつかしい。
ある年のシーズン後、落合さんは久保田さんの元へ2本のバットを持っていき、「こちらのバットのほうが細い」とのクレームである。

計測するとその誤差は0.2mmだった。落合さんによると、<バッティングというのは構えているときは落ちない程度に軽く持ち、インパクトの瞬間にグッと力を入れる。0.2ミリ細いと、力を入れたときに手の中でグリップに遊びが出来ちゃう>のだという。

それ以来、久保田さんが手がけるバットのグリップのオーダーとの誤差は、わずか0.1mmになったという。

久保田さんの手がけたバットを愛用した主なプロ野球選手は、他にもランディ・バースさん、福本豊さん、衣笠祥雄さん・・など、往年の名選手の名が連なる。

<菊づくり菊見盛(みざか)りは蔭(かげ)の人 >。
この句の作は、宮本武蔵でも有名な作家・吉川英治さんなのである。

 

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