日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

なじみ言葉におけるアラカルト

 

電子レンジで加熱する意味の“チンする”という言葉は、90%以上の人に使われているという。“サボる”も同様によく使われるが、その昔はサボるときにも“チンする”が使われていたらしい。体育系の合宿所から学校に通う学生が、授業をサボり合宿所でダラダラ過ごすときなどそう呼んでいた。それは、合宿所に沈没する、の略なのだとか。

末尾に「る」や「する」を付けて動詞のように用いる言葉の“チンする”は、もはや辞書に載ってもいいレベルで、ほかには“きょどる”(挙動不審な態度をとる)や“ディスる”(けなす)なども使われている。

今では普通に使われる“所有する”や“勝利する”も、出たばかりの頃は違和感を持たれたことだろう。“チンする”につづく全国共通の新顔がどんどん生まれるのかも知れない。

 

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<智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい>。ご存知、夏目漱石さんの『草枕』の書き出しの一節である。

国語に関する世論調査」(文化庁)の中に、“流れに棹さす”という言葉がどれだけ理解されているかの設問があった。その意味を<傾向に乗って、ある事柄の勢いを増すような行為をする>と正解した人は23.4%、<傾向に逆らってある事柄の勢いを失わせる行為をする>と誤って答えた人は59.4%だった。

明治39年(1906年)の作品である『草枕』。慣用句の理解は100年余でこれほど変わりもする。

伊豆の踊子』の中で“ことこと笑う”と書いたのは川端康成さんである。
かたや、弟子の三島由紀夫さんは擬音語を嫌ったという。幼児的であり、言語の堕落だと『文章読本』にて手厳しく批判している。『金閣寺』で用いた擬音は“しんと・・”の一語だけだそうである。

“キーン”という語も辞書にはないようだが、金属音、頭痛、飛行機をまねするのにも使える便利な言葉である。日本には4000を超す擬音・擬態語があり、世界でも飛び抜けて多いという。

 

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<ひとの嫌がることを進んでしなさい>。小学校で先生が生徒に教えた。ある男の子は女の子の嫌がることばかりして歩いたという。言葉はややこしく、日本語はむずかしい。その男の子は当然叱られたのであろうが、叱られるわけがわからなかったのではないか。

パソコンもファクスもなかった時代、新聞記者は急ぎの原稿を電話で送った。珍時もよくあったようで、朝日新聞などの校正記者を長く務めた加藤康司さんは、回想録『赤えんぴつ』に記している。

電話で書き受けた原稿には、<宮様が東大寺で大きな亀をご覧になった>とある。
東大寺に大亀がいるとは、本社内の誰も聞いたことがない。
原稿を送ってきた奈良支局へ電話で問い合わせた。

「大きな亀でいいですか」→「はい、大きな鐘です」。
「ツル、カメの亀ですね」→「はい、釣り鐘の鐘です」。
「確認ですが、動物の亀ですね」→「はい、大仏の鐘です」。

情報技術の発達で人と人による勘違いは減り、パソコンの演じる勘違いや漢字の変換ミスに気を使う時代である。勘違いから人のにおいが消えつつあるのはどこも同じか。

 

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上述の世論調査では“噴飯もの”の解釈についても取り上げられていた。
<食べている飯を笑って噴き出す>語源は承知していても、正答・誤答の単純な切り分けにむずかしさを実感した。

<腹立たしくて仕方ないこと>(49.0%)と誤解していた人が、正答である<おかしくてたまらないこと>(19.7%)をはるかに上回っていたという。

仮に面白い落語を聴いても、「おかしくてたまらない。じつに“噴飯もの”だ」と言い表すのが正しい用法とは思えない。政治家お得意の弁明で「秘書が、秘書が」とくればお笑いぐさの“噴飯もの”だろう。

怒りや不快感から生まれる苦笑いが、“噴飯もの”に必須のスパイスだとすれば、いったいどちらが正答で、どちらが誤答か、むずかしいところだ。

 

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<私が党の創業者だ。その私がなぜ出て行かなければならないか>。
昨年の今頃、みんなの党渡辺喜美前代表(当時)が発したといわれる言葉である。

鳩山由紀夫さんが民主党を去るときもそうであったが、<軒先貸して母屋をとられる>
とのフレーズが浮かんでしまった。それぞれのいきさつがあるからそうなるのだろうが、ご本人たちには<一つの政党を起こすため人一倍尽くした>などと、納得できないものがありそうだ。

アメリカではベンチャー企業の創業者の約半数が、追放の憂き目にあっている。
アップルの創業者スティーブ・ジョブズさんも、10年余り会社を去った期間がある。
事業を成功させても、持続的な成長は難しい。自ら築いた企業を追われる心境は、その身にならねば分からないことだろう。

企業が外から資本を集めれば公共性が強まり、やがて個人商店でなくなる。
政党には「税金」という資本が入る。

維新の党分裂も創業者が出ていき、<政党交付金13億円をめぐり攻防激化>などとのニュース記事が踊る。政党交付金が分割される“分党”なのか、それとも飛び出した側は受け取ることができない“分派”になるのか。いずれにしても、その資金源は税金なのだと、しっかりと“肝に銘じて”いい仕事をしてもらいたい。