日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

流行りドラマで垣間見る現在

 

「倍返し」なる流行語が生まれたのは一昨年のこと。銀行内での権力闘争をケレン味たっぷりに描かれたテレビドラマ『半沢直樹』は、最高視聴率42.2%を叩きだした。
以降、2013年~14年の2年連続、高視聴率で貢献したのが『ドクターX』である。こちらの決めぜりふは「私失敗しないので」なのだ。

どちらの主人公も、(人間関係に縛られた)日本社会の縮図の中、自分の意思や正義を貫く。身に降りかかる試練を耐えた半沢直樹は、己の知恵と力を振り絞り問題を解決する。そこで対するは、憎々しく、底知れない魅力を感じさせる悪役たちである。その対決場面での、(まるで時間が止まったような)グッとためた芝居が最大の見せ場である。

『ドクターX』は、組織に縛られない一匹狼が主人公である。フリーランスの凄腕外科医・大門未知子がどこからともなくやってきて、腕一本で様々な問題を解決し、去っていく。

 

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歌舞伎は、400年かけて日本人の好むように作り上げた芝居である。
そのエッセンスを継承した『半沢直樹』は、日本人が好むドラマのスタイルに仕上がった。
半沢直樹』を現代版テレビ歌舞伎とすれば、『ドクターX』は西部劇といえよう。
大門未知子の登場シーンなどは、一世を風靡したマカロニ・ウェスタンを彷彿させる。

西部劇は、アメリカが作り上げたエンターテイメントの雛型で、世界中で数々の大ヒット作を生んだ。
半沢直樹』と『ドクターX』は、閉塞感にあふれた現実社会に立ち向かうヒーロー、ヒロイン像を“日本的”と“アメリカ的”に展開させたものといえるかもしれない。

両ヒット作であらためて思うのは、21世紀に満ち溢れる閉塞感である。
現実には、正義を貫いたあげくの「倍返し」などとは無縁で、「私失敗しないので」などとおこがましくて言えない。
だからこそ、半沢直樹や大門未知子がカッコよく、視聴者の支持も集めるような気がする。

 

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名ドラマの陰にはいつも“名助演者”がいる。私たちの時代は、主役に対して“脇役”、“端役”と呼んでいたが、今は助演者ブームのようである。新聞や雑誌などでも、助演者たちに焦点を合わせた記事が掲載されている。

助演者が個性と存在感に溢れる好演を見せ、ドラマ界に刺激を与えた。ドラマ制作者の熱も、助演者のキャスティングによく表れる。というのも、現在のドラマ界は主演俳優がほとんど固定化され、制作者の自由が効きにくい。

近年のドラマ界で主演俳優の固定化は、1960年代半ばまでの映画界黄金期の「スター・システム」と似ている。ドラマも黄金期の映画も主演俳優は僅か。限られた人数の俳優が、数ヵ月から数年おきに主演する。テレビ局側は人気者をメインに据えることで、一定の視聴率を見込みたいし、黄金期の映画界も銀幕スターの集客能力に期待していた。

 

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こういう背景にて、制作者の色が出るのは圧倒的に助演者なのだ。
制作者の眼力やセンス、力量が表れやすい。助演の起用にもテレビ局と芸能プロの関係が影響するが、主演のそれとは比べものにならない。

<役者には、良い役者とそうでない役者の二通りしかない>。
助演が大半だった蟹江敬三さんは、こう語っていたという。

野球の世界も「4番打者なら引き受けるが、6番打者はお断り」という選手がいたら、プロとは呼べないだろう。
ドラマ、映画、演劇は、いずれも団体戦であり、“脇役”、“端役”と思って演じる俳優はいない。ドラマはオーケストラのようなもの。名制作者は助演者をおろそかにしないし、主役をこなした名優もまた助演を厭わない。

 

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「1に脚本、2に役者、演出は3番目」というのが、ドラマや映画、演劇の定説だとか。
どんなに名優を揃えようが、脚本が面白くなければ、名作には成り得ない。
演出面でも同じで、どんなに優れたディレクターや監督が作品を手掛けようが、脚本の拙さは致命傷になる。

<良いシナリオから駄作が生まれることもあるが、悪いシナリオから傑作の生まれることはない>と言っていたのは黒澤明監督である。

ところが、ドラマ界においては黎明期からしばらく脚本家が日陰者扱いされた時期があり、やっと作者の名前が前面に出たのは1976年。「山田太一作品」と銘打たれた『男たちの旅路』だった。

同時代に、倉本聰さん、向田邦子さん、市川森一さんらが大活躍したため、見る側も誰が作者なのかを意識してドラマを選ぶようになった。そして、優れた脚本家たちが台頭した時代は、例外なくドラマの黄金期と重なる。
最近のドラマでもうまい脚本が目立つ。若手脚本家の台頭もあり、これからのドラマに期待が持てそうだ。

また、シリーズが13になってもクォリティを保つ『相棒』も脚本を重んじている。
約10人もの脚本家を擁し、優れた作品だけを採用するというシステムのため、ロングヒットを続けている理由がよくわかる。