日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

秋元流作詞法とは犬のう◯ち

 

2年前に、テレビ放映された『熱血授業!秋元康氏と女性社長300人』という番組が今でも私の頭の中に残っている。内容がおもしろかったからなのであろう。その講演会は前年11月に行われ、女性起業家たちを前に熱く語る秋元さんが印象的であった。

秋元康さんがAKB48を結成する1年前の講演を1枚のA4メモから再現してみる』というエントリで記したが、(私が)講演を拝聴したときとは、お話の勢いに差がある様に思えた。女性起業家に対するメッセージということもあるだろうが、<AKB48プロジェクト>の着手前と世に送り出したあとの“差”のようなものかもしれない。

講演では、成功への着眼点などを多岐にわたり具体的に話されていた。そして、「予定調和」なる言葉を多く使い強調していた。<予定調和が全てをつまらなくしている。「他の人はどうするかな」をイメージして、他の人がやらないことをやってみる>等と。また、ご自身の体験談で「犬のうんちを踏んだ話」をとても楽しそうに語られた。なぜなら、「予定調和を崩したとてもラッキーなことだから」なのだと・・。

 

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秋元さんの作詞法は、<作詞家として歌を作る時とプロデューサーとして歌を作る時>で大きく違うという。
作詞家としての仕事は、レコード会社のディレクター、芸能プロダクションのプロデューサー、またアーティスト(歌手)本人から頼まれるので、打ち合わせをしてクライアント(依頼主)の要望を聞き、スタッフの抽象的な意見をまとめて具現化する。

秋元さんから意見も言うが、雇われている身のため、できるだけ制作者たちの意向に沿おうとする。中島美嘉さんの「STARS」や「WILL」、ジェロさんの「海雪」、稲垣潤一さんの「ドラマティック・レイン」などがこのパターンである。

プロデューサーとして歌を作る場合は、先に全体像を思い浮かべる。どういうテンポで、どういう楽器が鳴っていて、どういうメロディーで、どういう歌詞でいくか・・と。
美空ひばりさんの「川の流れのように」は、秋元さんがプロデューサーだったので、「My Way」みたいな大きなテーマの歌を目指し、作曲家の見岳章さんにメロディーを発注して合わせて詞を書いた。

 

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AKB48の場合も同様で、全体像を決めて、プロデューサーの秋元康さんが作詞家の秋元康さんに発注する。
AKB48の場合は、曲をすべて競作にしている。有名無名問わず、多くの作曲家に曲を提供してもらい、一番よかった作品を採用させてもらう。

AKB48のシングル1曲のために、1000曲以上のデモが届けられ、秋元さんが何時間もかけて聴きまくる。惜しいものは直しをお願いしたり、仮のアレンジ発注をしたり、
AKB48の別グループに回したりする。そして、“これだ”と選んだ曲のアレンジが上がってから、歌詞を書く。

一昨年、秋元さんはAKB48の2月20日発売のシングル「So long!」のカップリングに入るチームBの曲が見つからなくて困っていた。デモの中からようやく見つけた曲は、かなりの名曲だ。メロディーもわかりやすく、アレンジも可愛い。
ファンの支持が高いタイプの曲である。しかし、それだけでは面白味に欠ける。
プロデューサーの秋元さんは作詞家の秋元さんに注文をつけた。
「歌詞で“予定調和”を壊して欲しい」。
そして、その指示に従って、秋元さんがチームBのための歌詞を書いた。
そのタイトルとは、『そこで犬のうんち踏んじゃうかね?』というものであった。

 

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さっそく歌詞を送ったら、レコーディングスタッフから、「本気ですか?」と言われた。
AKB48の場合、すべて先にメロディーを作る。チームB用に選んだ楽曲は、軽快で楽しい曲調だったので、普通の歌詞にすると何も印象がなくなってしまうのである。

メロディーを聴くうちに、男の子が車でガールフレンドを迎えに行くシーンが見えてきた。
男の子はイケメンだが、どこかドジなキャラクター。主人公の女の子は、彼のドジさにあきれているが、もちろん大好き。しからば、そのドジっぷりをどう表現すればいいのか。

そこで思い出したことがある。1989年、秋元さんがニューヨークに住んでいた頃の話だ。ある日、秋元さんはマンハッタンのコンドミニアムで仕事をしながら、ふと思いついた。「ロスの友達の所に遊びに行こう」と。

いつも飛行機や迎えの車、ホテルもスタッフが手配してくれるのだが、誰にも頼まず自分でやってみたかった。ロスの友達の家に突然行って、サプライズにしようと思ったからである。秋元さんはロスの空港に着き、案内所で泊まったことのないホテルを予約した。

タクシーに乗り、ホテルに着き、車から一歩外に出た時、事件は起きた。
左足の裏でグニャッと何かを踏んだことに気がついた。状況から考えると、"犬のふん"のようである「参ったな」と苦笑いしながら、秋元さんは次第に面白く思えてきた。

 

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この犬のふんを、踏む確率はどれくらいあるのだろう?
ニューヨークに住んでいる秋元さんがロスに行こうと思わなかったら?
スタッフが手配していたら、このホテルに泊まることはなかっただろうし、タクシーに乗ることもなかった。

あと1時間、到着が早くても遅くても、犬はまだここにいなかっただろうし、秋元さんの代わりに誰かが踏んでいたかもしれない。
その組み合わせを考えると、偶然にロスのそのホテルの前で犬のふんを踏む確率は、天文学的なものになるだろう。秋元さんは次第に感動してきた。

恋をすると、天文学的な確率の奇跡があっさり起きたりする。そういう歌詞にしようと頭の中でまとまり、メロディーを聴いていたら、「そこで犬のうんち踏んじゃうかね?」という言葉が当てはまることに気づいた。デートなのに、犬のふんを踏んでしまう歌にしよう。

決して、奇をてらったのではなく、一番、カッコつけなければいけない場面なのに、ドジなことをしてしまったボーイフレンドにあきれている女の子の歌を作りたかっただけ。

歌詞が届いた時、メンバーは大ウケしながら言ったそうだ。
「アイドルに犬のうんちの歌、歌わせます?」。
<馬鹿馬鹿しい歌詞だが、愛はどんな状況も許容するというメッセージソングなのだよ>とは、秋元さんの弁。