日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

ほんのわずかな差の奥にある大きな差

 

白鵬という人間にずっと興味がある。たしか、大関から横綱になる頃からであったろうか。無敵だった朝青龍に勝てる男が現れた、という感じで注目をした。

白鵬の、(主な力士との)幕内対戦成績をみれば、朝青龍と13勝12敗である。逆に、朝青龍は白鵬だけに負け越している。ただし、優勝決定戦を含めると朝青龍の勝ち星がわずかに上回っているらしいが。

朝青龍の引退後に白鵬の独走が続いたが、最近は気持ちのいい負けっぷりが目につくようになっている。長い間、負けがほとんどなかったのに、昨年の11月場所では、無敗のまま14日目で稀勢の里に破れ、千秋楽では日馬富士にと連敗を喫し、(日馬富士の)逆転優勝を許した。そして、初場所では大関・鶴竜に千秋楽で破れ、優勝決定戦に持ち込まれた。その決定戦を制して優勝したが、負けながらの安定感が人間らしさを感じられておもしろい。

 

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人生の競争の1位と2位はほんのわずかの差だと言われる。そして、それが優勝者を決定するというのである。

白鵬は、モンゴル国ウランバートル市出身で、宮城野部屋の第69代横綱(2007年7月場所~)である。貴乃花および朝青龍とともに「平成の大横綱」の一人といわれる。

父ジグジドゥ・ムンフバトさんは、ブフというモンゴル相撲で、5年連続6度の優勝をした元アヴァルガ(大相撲の横綱に相当)である。メキシコ五輪のレスリング重量級にも出場して、銀メダル(モンゴル初の五輪メダリスト)を獲得。モンゴル国の国民的英雄になった。白鵬はといえば、モンゴル相撲を子どもの頃に遊びでやったくらいで、バスケットボールに夢中で取り組んだ。

 

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2000年秋に、モンゴル出身の旭鷲山を頼り、6人のモンゴル人と共に来日。

大阪府内の倉庫で相撲を習っていたそうだ。そして、来日した仲間たちの入門が決まるなか、小柄だった白鵬を受け入れてくれる部屋は最後までなかった。失意の帰国前日に、彼に同情した旭鷲山が、自らの師匠の大島(元大関・旭國)へ相談してくれた。その大島は友人であった宮城野(元幕内・竹葉山)に受け入れを申し入れた。当時の宮城野部屋は弱小部屋で、厳しいしきたりも少なく、白鵬には伸び伸びとやれる環境であった。

しかし、親方は(白鵬の)父親の実績もまったく知らず、その小柄な体から大きな期待はしていなかった。

 

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2001年に初土俵を踏む。番付に名前が載った5月場所では、身体もまだ小さく3勝4敗の負け越し。後の横綱(しかも大横綱)として、異例ともいえる序ノ口での負け越しなのである。

初土俵が日馬富士より1場所遅い白鵬にとって、日馬富士は「雲の上の人」だったそうである。当時の実力差はかなり大きかったらしい。それでも、白鵬の横綱昇進は日馬富士よりも約5年半早かったのだから、勝負の世界はわからない。

入門当時に小柄だった白鵬の体も、大食漢だったことと、稽古熱心によって大きく成長した。急激な肉体の成長に合わせるように、才能が開花して勝ち越しが続いていった。

ただ、幕下時代に朝帰りをして、土下座しながら許しを得ようとしたが、師匠に(激怒されながら)破門を言い渡された。部屋付きの親方衆や兄弟子たちの仲介で破門は免れたが、周りから(師匠へ)の助言がなかったら、白鵬は引退に追い込まれ、後の横綱・白鵬も誕生しなかったのである、人生の成功者というのは、とてつもない努力をしているだけではなく、ほんのちょっとした努力や配慮が(人生を)決定している。そして、本人の人柄でまわりの人に助けられることがある。

 

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白鵬の言葉を注意深く訊いていると、生活の中にいつも追及すべきテーマを持っていることに気が付く。また、それを見い出そうと努力していることも感じられる。相撲に対する研究が非常に熱心なのである。タブレットに(大鵬などの)大横綱の名勝負の動画を入れて、常に研究している。相撲に関する多くの資料も、その中にインプットしていると言っていた。

世の中のいろいろなアイデアや発見には、画期的なものもあるが、積み上げられたものより、さらにほんの少し先を行っているのに過ぎない。そして、「経験」を絶えず検証する。

「経験」は人間にとって大きな財産である。一度経験したことは余裕を持ってできるから失敗は少ないが、単なる繰り返しではいけない。少しでもこれまでとは違う工夫を加えるべきだ。 白鵬は自分の過去の取組みもよく憶えている。勝ち負けに関わらず、経験からの新しいものを模索しているようだ。数多い取組みの中には、甘えて言い訳をしてしまいたいものもあると思われるが、白鵬はどうすればその状況にふさわしい対処ができるか、を自らに求めている。

 

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白鵬は、自分の目指す相撲を具体的にイメージしている。そのことこそが、なによりの成功の起爆剤となる。そして、成功に安住しない。今の自分に満足し、挑戦する心を失うと、独創的な発想までも腐らせてしまう。「発明は苦し紛れの知恵」という名言があるが、白鵬も苦し紛れから出た決まり手をよく憶えている。そして、それを次に活かしていくのである。

横綱としてのプライドはとても大きなものであろうが、白鵬の相撲にはプライドにとらわれている慢心がまったく感じられない。プライドにとらわれると何もできなくなる。時にはプライドを捨て自分自身を解放させる。それが新しい可能性を引き出すに違いない。そのことを白鵬の相撲から感じ取れるのである。

最近の取組みでも、相手より先に自分が熱くなって気持ちを昂めている。そのとき、格下の相手は冷めたままなのである。格下相手でも全力で積極的に向かっていく。それでも、最近は負けることがある。全力で向かい勢い余って負ける光景は、見ていてもあっぱれである。これぞプロだと思う。

 

 

今週の一枚「おさんぽ写真」