日日平安part2

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川端康成さんの『掌の小説』はブログ的な気がする

 

川端康成さんの『伊豆の踊子』、『雪国』、『古都』など、代表作といわれるものは一通り読んでいるが、印象に残っているのは『眠れる美女』くらいであろうか。川端作品のイメージとちがう一面を感じた作品であった。川端さんは、清く正しく美しい小説を書く、正統派作家との思い込みがあったのである。

代表作に対する思いはその程度なのであるが、20年以上前に読んで、今も忘れられない一冊がある。それが『掌の小説』なのである。川端康成さんが、20代の頃から40年余りにわたって書き続けてきた掌編小説を収録した作品集。 

  

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『掌の小説』は1971年(昭和46年)に刊行された。作品の長さは、短いもので2ページ程度、長いものでも10ページに満たないショートショートが111編収録され、1989年(平成元年)改版から11編追加されて122編の収録となった。

ちなみに、川端さんの掌編小説の全総数は128編だそうなので、この一冊はとても貴重だといえる。 

 

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 習作として書かれたものも多く収録されていて、「私は詩の代りに掌の小説を書いた」と川端さんは語っている。日本でもっとも美しい文章を書いた作家、として紹介されることのある川端さんであるが、透明感のある文章やクオリティの高さを随所に感じることができる。初期の36編は1926年(大正15年)に刊行の処女作品集『感情装飾』に初収録された。その後の1930年(昭和5年)に刊行の『僕の標本室』には47編が収録。そして、1938年(昭和13年)に刊行の『川端康成選集第1巻』には77編が収録されているとのこと。

 

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 これらの掌編小説群に関して、川端さんは1938年(昭和13年)時点では、

  • 「この巻の作品の大半は20代に書いた」
  • 「無理にこしらえた作もあるけれども、またおのづから流れ出たよい作も少くない。」
  • 「今日から見ると、この巻を『僕の標本室』とするには不満はあっても、若い日の詩精神はかなり生きてゐると思ふ」

などの述懐が残っている。

しかし、その12年後に出された全集ではこの評価を覆し、「私の歩みは間違つてゐた」と自己嫌悪を述べている。川端さんのお気持ちはわからないが、書くことを目指すものにとっては、どの作品もダイヤモンドの原石のように思えてしまう。

 

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 122編のショートショートをかんたんにカテゴリー分けしてみると、「自伝的」、「伊豆」と「浅草」を舞台、「写生風」、「夢想・幻想的」ということになる。それぞれに豊富なストーリーを描き分けている。内容といえば怪奇、超自然、SFまでもがあるのだ。それが川端さんの文章により描かれているのだからなんともいえない。ズラリ並んだ122編のタイトルを見るだけで、すぐに読みたくなってくる。余談であるが、当時ショートショートの流行作家の方たちの作品もよく読んでいたが、川端康成さんのショートショート作品は別格に感じた。

そして、私が拝読させていただいているブログの中でも、『掌の小説』を彷彿させてくれる記事との出会いがよくある。思えば、良質のショートショートは、小説としてではなく、あえてブログに置き換えてみると、共通する要素がたくさんあるような気がする。