日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

小津監督の目線が私の性に合う

小津安二郎監督の映画をDVDで久しぶりに観た。小津作品は静かで観やすいモノが多い。しかし、よく観ると細かい演出を随所に感じる。

有名な、地面すれすれ(低いカメラの位置で)の撮影にも惚れ惚れするが、役者さんたちに対する演出もすごい。ハードボイルドというか、人物の感情が顔の表情にはほとんど表れない。映画のフィクション性を十分に意識したつくりなのである。

小津監督は60歳で没後、ヨーロッパを中心に作品への評価が高まり、その独特の映画スタイルが斬新なものとしてもてはやされるようになった。

 

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かたや、40歳代で世界的に認められた黒澤明監督は、80歳以降にも3つの作品を残している。黒澤監督の作品は、物語のテンポの良さとダイナミックな画面作り。顔のアップが多く、豪雨のシーンが有名。迫力のある時代劇と、人間ドラマやサスペンス。黒澤監督の張力のある画面が鋭角とすると、小津監督の画面はゆったりとした鈍角である。なにもかもが正反対のような感覚で、このふたりの巨匠は対比されることが多い。

 

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小津作品の目立つ特徴の一つに「ロー・ポジション」があげられる。低い位置から撮られた映像は、日本家屋での座り芝居を見せることに好都合で、同じ構図のショットを繰り返すことが、見るものに心地よい安定感を与えている。

「ロー・ポジション(ロー・ポジ)」は「ロー・アングル」とはちがうとのこと。

「ロー・ポジ」はカメラの位置を下げることで、「ロー・アングル」はカメラの仰角を上げる(アオル)ことをさしている。小津作品では、カメラをほとんどアオらず、低い位置にすえて、ごくわずかにレンズを上にあげていたそうである。基本的にカメラを大人の膝位置より低く固定し、50ミリの標準レンズで撮った。これらのことを頭に入れて、映像を観ると、その技が面白いように見えてくる。

 

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とくに、畳の生活とは無縁の外国人からは、この「ロー・ポジ」が異様なくらい新鮮に感じられたらしい。その、トレードマークともいえる「ロー・ポジ」のきっかけを調べてみると、あっけにとられた。

映画のセットで、少ないライトをあれこれ動かしながら撮影をしていたら、カットごとに床の上のあちこちでコードが動く。床が映らないよう低い位置からカメラを上向けにした。

それで、出来上がった構図も悪くないし、時間も省けるので、その後も癖になりカメラの位置もだんだん低くなったそうだ。まさに、瓢箪から駒が出たのである。

 

話は変わるが、わが家にいるときの自分の目線を、小津作品のカメラ位置に合わせると、どのくらいなのかを探ってみた。すると、ゴロリと横になり肘(ひじ)枕をしたくらいの高さがちょうどいい。そのままテレビを観るときも、「ロー・アングル」ではなく「ロー・ポジ」で、自然体のままでだいじょうぶ。

なんのことはない、いつも自分がリラックスしているときの定位置なのであった。私はリビングにあるソファなどを使ったことがない。これからの時期はコタツで一杯やり、テレビを観ながら肘枕。そのままの、うたた寝がとても気持ちがいい。どうりで、小津監督の映画で癒されるわけである。私の最高のポジションの目線であったからなのだ。この目線は楽しくてやめられない。