日日平安part2

日常を思うままに語り、見たままに写真を撮ったりしています。

物怖じと人見知りをしない人

 

若かりし頃、人生の先達者たちからたくさんの刺激をもらった。
この方からの影響も少なくはない。竹村健一さんである。

テレビのトーク番組『竹村健一の世相講談』(1978年4月~1985年3月)では、小渕恵三さん、大平正芳さん、石原慎太郎さん、(大統領になる前の)レーガンさんなどと、多くの著名人が出演していた。

当時、20歳代の小池百合子さん(現都知事)も、その番組で竹村さんのアシスタントを務めた。小池さんもそこでテレビメディアの本質を学び、政治の仕組みを知るきっかけになったようだ。

私自身、竹村さんの著書を読み漁り、サラリーマン時代のノウハウ本として得るものがとても多かった。“目から鱗”の思いで、仕事への応用と効果を楽しめたのだ。

竹村さんはマクルーハン氏のメディア論を日本へ広めた第一人者でもある。
自らテレビやラジオで多くの番組に出演し、それぞれのメディアの特性を活用していた。

 

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竹村健一さんの講演を一度聴いたことがある。先輩がなかなかとれないチケットを手に入れてくれた。一番前の席に陣取り、びっしりとメモをとりながら聴き入った。

それからしばらくして、2度目の再会が訪れた。
11年前、サントリーホールでのクラシックコンサートだった。
三枝成彰さんの企画で、外国から指揮者を招いた演奏会である。

私の妻(以降M子さん)がなにかの懸賞でゲットしたチケットだったと思う。
M子さんは、チケットをゲットする名人なのだ。

会場入りしたら、良い席でおどろいた。
VIP席なのか、周りは(テレビでよく見る)ジャーナリストや著名人が何人も。
2列後ろには羽田元総理がいた。

私は心配になった。隣に座るM子さんのことだ。
M子さんは有名人を見ると突発的に動いて話しかける。
芸能人にもサッサと近づいて声をかける。

演奏が始まっても、なにが起きるかハラハラ・ドキドキ。
しかし、その日は妙におとなしい。それはそれで、逆に心配になる。

M子さんは休憩時も有名人に近寄る素振りは見せなかった。
再演前に後ろを見たら、羽田さんの後ろに竹村健一ご夫妻がいらっしゃるのに気付いた。

M子さんに伝えると、「いや、ちがうでしょ?」、と。それでも再度振り返り「本当だ」と納得。

M子さんの不気味な静けさもそこまでだった。
その後、予感は的中した

 

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コンサートが終了。すぐうしろで竹村さんと羽田さんが軽く談笑していた。
そして出口に向かい始めた。我々もその後に続くのだが、M子さんは早足で私の先を歩いて行く。

ゆっくり歩く羽田さんを追い抜いたM子さんは、竹村ご夫妻を追うように、サッサと出口へ向かう。まるで獲物を狙う動物のようにだ。

ホールを出て竹村ご夫妻に追いつくM子さん。
私が追いついたところ、M子さんは竹村健一さんに向かい話しかけていた。
「先生もいらっしゃったのですね」とにこやかに。

竹村さんは知り合いのどなたかと勘違いしたのか、やさしく対応して下さった。
私もどさくさまぎれでご挨拶。感激で胸がいっぱいになった。

それで終わりと思いきや、竹村さんの帰る方向へM子さんは並んで歩いて行く。
少し遅れて竹村さんの奥様と私。奥様は私たちより年代は上だが、小柄で可愛らしい方である。楽しそうにコンサートの感想を私へ話しかけて下さる。

そして別れ際に、M子さんが竹村さんへ一言。
「先生、握手していただけませんか!」。
竹村さんは手持ちのカバンを持ち替え、やさしく握手をしてくれた。

私にとってはあこがれの人だが、M子さんにとってはそうでもないはず。
物怖じと人見知りをしないその人を、うらやましい気持ちで私は眺めていた。